再び宿場街道へ

 足元に置いてある小さな木彫りの鳥。魔術的なアイテムだろうか。まさか声の主がこれとは思わなかった。

 しかも名乗れないという。とりあえず”鳥”とでも仮称しておこう。


 でも本当にどうするよ。僕らはこのままアルフィナ様の元へ向かわなければいけないのに、同時に持っていっちゃいけない男爵様の死体も持っている。

 そして本来ならそれを運んでくれる部隊は全滅。指揮官はこの木彫りの鳥だという。

 まあ遠隔操作なんだろうけどね、その位は僕でも分かるよ。問題は、何の役にも立たないって事だね。


「どうするんだ、コレ」


「一応、プランは幾つも用意してあるさ。1つや2つ失敗した程度で手詰まりになったりはしないよ」


「それは心強いね。それで、これからどうすればいいんだ?」


「先ずは宿場街道へ向かってくれ。ケイムラートへの途中にある場所だが、場所は分かるかい?」


 僕らがどんなルートを通ってここまで来たと思っているんだコイツは。

 いや、もしかしたら試しているだけかもしれない。

 疑い過ぎるのもどうかと思うが、自分より賢い相手、自分より権力を持っている相手、自分より強い相手、そして正体の分からない相手。それらは全部警戒した方が良い。僕のような小動物が生きる術さ。


「では宿場街道へ向かおう」


「もちろん私も行くよ」


 そう言うと、木彫りの鳥はまるで生きているように羽ばたくと、シルベさんの肩に乗った。

 動かないただの置物かと思ったから、結構本気で驚いた。声は出さなかったけど、顔には出てしまったかもしれない。気をつけないとな—。


 ちなみに“馬のようなもの”はすぐに見つかった。多くはロープを切って逃げてしまったようだが、まだそれなりに残っている。

 ただ足が7本あったり前足と後ろ足の長さが違っていたり、カタツムリのような体になっていたりと問題だらけ。中には岩のようになっているのもいるけど、これはもう生き物と言って良いのやら……。


 結局その中で、異常に肥大化した一頭を選んで全員でそれに乗る事になった。

 体高は4メートルを超えているだろう。歩くたびにズシンズシンと地響きを立てる様は、もう馬とは思えない。他も違う意味でそうだけど。

 図体に応じて狂暴化していたらどうしようかと思ったけど、その辺りは普通の馬だった。

 不幸中の幸いだね。





 ※     〇     ※





 宿場街道まではアジオスから数キロメートル。普通の馬なら早かったけど、こいつはどうもそうはいかない。ズバリ言ってしまえば遅い。

 馬を操るのは当然僕。今も霧の中だしね。そして僕の後ろにはシルベさん。腰にしっかりとしがみ付いている。まあ落ちると危険だからね。

 背中に顔を埋めているのは、多分疲れているからだろうと思う。

 いや、彼女だけじゃない。みんな疲れているんだ。


 そしてそのシルベさんにはミリーちゃんがしがみ付いている。

 更に後ろにはメアーズ様。でも正確には、その前にはロープで左右に垂らした男爵様の遺体が入った麻袋が吊るされている。

 たまに透明な蟲がちょっかいを出しに来るけど、それは秘かに足から延ばした触手で追い払う。


 最後尾はラウス。全員数珠繋ぎだけど、それで乗れるこの馬は少し便利かもしれない。

 大人しいし、もし最後まで残っていたら良い働き手になるんじゃないかな。

 でもミリーちゃんがケイムラートで手に入れた馬っぽいものは、コップランドの町近くで溶けて消えてしまったという。

 やっぱり二つの世界の境界は曖昧なんだな。そして向こう側――今と違う世界がこちらに顕現けんげんしたら、今度は僕らが消える番なのかもしれないな。


「ねえ……貴方達の組織だけど」


 シルベさんはここぞとばかりに聞いてくるが……、


「是非聞きたいねぇ」

「ホントホント」


 木彫りの鳥とミリーちゃんも興味津々だ。だけど当然――、


「秘密だ」


 この一点張りで誤魔化した。いやー、口数の少ないイメージのバステルで良かった。

 口の軽そうなケティアルさんじゃこうはいかなかったね。

 それでも鳥はしつこかったけど、全部無視したよ。

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