これからの行動
それにしても……壺に座って考える。
――なぜ男爵様を殺した?
もちろん、頭のおかしな連中のやる事をいちいち考えたって仕方がない。
だけど、この問題は彼らにとっても重大な意味を持つんじゃないのか?
天井から吊るした鎖につけた人間のパーツ。まるで振り子のように揺れるそれは、不気味な芸術の様だった。
いや、儀式? だとしたら、阻止出来たと考えていいのだろうか?
手遅れなら、僕らはこんなにのんびりしてはいられないだろうしね。
それにミリーちゃんの様子も気になる。
それぞれ事情はあるけど、彼女にとってはスポンサーであるコンブライン男爵の生存自体が最重要。そのために来たんだと、何度も言っていた。
でもそれ程の動揺が見られない。顔に出ないタイプ? もしくは……。
いや、偽物って可能性はない。僕の感覚器官の全てが、あの遺体が男爵本人だと確信している。なにせアルフィナ様がちっちゃな頃から一緒だったんだ。間違えようが無いよ。
でも考え続けていても仕方がない。残ったものをごぼごぼと出して、高価なドレスでお尻を拭く。
僕としては、やることはもう決まっている。
ただ誰の姿で行くか……問題はそこだけかな。
〇 ■ 〇
「お、戻って来た……ってバステル? ラマッセは?」
「ラマッセは戻った。まだ傷が完治していないんだ」
「そういや額から血を流していたね。気になっていたけど、転送される時には何も持ってこれないのかな? 普段は治療とかをしているんだよね?」
そう、あれから考えた末、結局バステルの体に変身して皆の所へと戻った。
服は全部女性用のドレスだったので、仕方ないからパンツはレースの付いたブルーの女物。その上から何枚ものドレスをぐるぐると巻いた服装だ。
みっともないけど、どうせテンタや他の人になれば全部取れるんだ。気にしたってしょうがないじゃないか。
僕が変身できる人間は、剣の達人にして元王子のエリクセンさん。弓の天才であるバステル。
両方とも戦いに関しては凄いけど、エリクセンさんの体を使うのは難しい。
死んだはずの王子様なんて、万が一知り合いにでも見つかったら大変だしね。
それに自称ジゴロのケティアルさん。そういえばジゴロの意味を調べ損じたままだね。まあ、今聞く事でもないと思う。
それに神学士のラマッセ。体に刻まれた――いや、埋め込まれた入れ墨のおかげで神の世界の物に対して抵抗がある。ここでは1、2を争う有用な体だけど、負傷中だし戦えない。
そして治療術士のカーツさん。本当は凄い人……だった。物凄い高度な治療術の知識は消えてしまい、変身は出来るけど普通の人だ。
シルベさんを見捨てれば、いつかその治療術を覚えることが出来たかもしれない。でも今更後悔はしていないよ。
そしてノートル。
あ、しまった! まだノートルに変身した事が無いや。
初めて触手のまま意識を交換した。そのまま敵の意識とともに消えてしまい、もうこの世にはいない。
でも触手と肉体はやっぱり残っている。実感はある。試してくるべきだったかなとも思うけど、余計な事はしない方が良いだろう。変身や他の人の触手を使うのは便利だけど、やっぱり体から何かが失われている気がするんだ。
そして女の子に触ると補充される……気がする。
今は非常時だし、やっぱりやめておいて正解だね。
メアーズ様はもう起き上がっていたが、僕を見るなりいきなり落胆した。理由は分からない。
逆にシルベさんはほんのり頬を赤らめて嬉しそうだ。こちらも意味はわからない。
まあ今はどっちもいいや。
吊るされていた二人のご遺体は、もう既に麻袋の中に収められていた。
袋は二つ。どっちも男爵様だ。
アルフィナ様のお母様の兄であり、育ての父であるベルトウッド・コンブライン男爵。
もう片方はメアーズ様のお父上。フルネームは知らないけど、サンライフォン男爵だ。
「ここで火葬にするのか?」
デリカシーにかける発言であることは承知しているけど、僕は一刻も早くアルフィナ様を助けたいし、皆にも死んでほしくない。
申し訳ないけれども、遺体の優先順位は一番低いんだ。連中に奪われないためにはそうするのが一番だと思う。
「そいつはダメだよ。ラマッセから聞いていなかったのかい?」
ミリーちゃんからツッコミが入る。ヤバい、全然覚えていない。
「一応確認だ。詳しい事を教えてくれ」
まあそう言っておくのが一番だね。
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