吸ったものは出す

 ゴボゴボゴボゴボ……はああー、すっきりした。


 場所はクローゼットのあった部屋。

 今僕のお尻の下には、そこに置かれていた壺がある。

 ふう……排泄なんて何年ぶりだろうか。


 触手でガンガン吸い取った蛆虫や悪い物質は、ラマッセになる時に胃の辺りに纏めておいた。

 それは間違ってはいないけど、もう壮絶な食あたりに近い状態になってしまったんだよ。

 でも触手に戻ることは出来ない。ラマッセの体が無いと、意識や体のコントロールを維持できないからね。


 そんな訳で壺の出番。

 動物――まあ人間もそうだけど、口から胃、そして腸まで一本の空洞になっている。

 そんな訳で、早速登場ノートルさんの触手。お尻から生やして、腸を伝って胃まで移動する。

 そこできゅぽきゅぽと吸い取ったら外に持って行って壺にバシャ―。消化して吸収なんて待ってはいられないしね。

 いきなりこんな事に使ってしまってごめんなさい。


 直腸を通すときには物凄く痛かったけど、同時に変な気分になった。慣れて良いのかダメなのか。

 また同じような事態がある事を考えたら、少しは慣れておいた方が良いのかもしれない。


 まあ、本当はこんな使い方をするんじゃないのだけどね。

 そう考えながら、本来の使い方を思い出して顔が赤くなる。


「吸っちゃったんだよなぁ……」


 あの小さくて平らな胸をゅぽきゅぽと吸いまくってしまった。

 本人は覚えていない様で助かったけど、僕の記憶にはしっかり残っている。

 いやいや、あれは人助けだ。


「ええと、もういいのかな?」


 いつの間にか、出入口の鉄扉からミリーちゃんが半身を覗かせてこちらを見ていた。

 いや止めて見ないで!

 まあお尻の触手は見えないし、普通に排泄しているように見えているだろう。

 彼女からすれば、あの状況から一気にトイレに駆け込んだように見えただろう。

 うん、それは分かるけどやっぱり覗かないで欲しい。

 でもまあ――、


「メアーズ様の様子はどうです?」


「まだ気絶中。今はラウスが見ているよ。あたしも確認して来たけど、傷も問題無いね。どちらかと言うと、あの触手に凌辱されたことがショックだったんじゃないかなー」


 凌辱とか酷い!


「あれは治療行為ですよ。見たでしょう、メアーズ様がおかしくなっていたのが」


「まあねー。でも見た感じだと、エロい生き物が襲っている様にしか見えなかったよ」


 酷い言われようだけど、強敵だったしノートルさんもノリノリだったからね。あんまり激しく否定出来ないのが問題だ。


「それでさ、人間のアンタらはテンタの所に転送されて来るんだよね?」


「その通りです」


 というか、そういう事になっている。


「じゃあさ、あの触手の塊は何?」


 聞かれてしまうか……当然と言えば当然だ。

 城壁を上った時の事はうやむやに出来ているけど、アレだっていつかは説明しないとまずかったと思う。

 しかも今度は全員が見た。もう隠せないだろう。だけど――、


「あれはテンタの緊急体形です。我々が対処出来無い時に行うための……そうですね。保険と思って頂ければよろしいかと」


「なるほどなるほど。つまりテンタは状況によっては、あんな姿になってあんなことをし始めると」


 なんか口を押さえてムフフと笑う。絶対に悪い事を考えている顔だ。


「普段はなりませんよ。メアーズ様にも説明してありますが、テンタの状況はある程度理解しています。その上での我々の判断でした。テンタが勝手にあの形になる事など、ありえません」


「なんだ、つまらない。でもテンタの事はちょっとわかったよ。やっぱりゴーレムやホムンクルスの様な魔法的な生物なんだね」


 意味が分からないので否定も肯定も出来ない。でもまあ――、


「詳細は秘密ですが、いずれ必ず……」


「はいはい。あ、お尻はその辺の布で拭いちゃいな。もう使う人もそうはいないでしょ。それと服も適当にね」


 そう。バステルの服は吹き飛んでしまったし、ラマッセに変わった時点で当然全裸。僕は今、真っ裸で壺の上に座っているわけですよ。

 そしてそれを、女の子に見られていたわけですよ。


 ……死んでしまいたい。


 だけど多少は誤魔化せた。

 今は全てを明かすことは出来ないからね。多少の嘘は許してもらうしかない。

 というより、ミリーちゃんの知識が逆に役に立った。

 他の人であれば、魔法的な生物みたいな発想は無かったかもしれない。そういった意味では、幸運と考えないといけないね。

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