地下広間
それのおかげという訳ではないけれど、音もなく着地する。
部屋は床には絨毯、壁と天井には木板が張られ、そこには絵画などが飾られている。
大きさはかなり広い。おそらく、外の壁で囲まれた敷地よりも広いだろう。
こんな湿地帯の地下にこれほどの場所を作るなんてね。お金持ちは凄いや……。
コンコンと壁を叩くと、案の定、裏は石と漆喰で何重にも重ねられていた。
壁にも天井にも魔晶の明かりが取り付けられ、部屋は昼間のように明るい。
だけど不気味だ……誰もいない。
万が一にでも見落としがあったらと警戒していたけど、少し拍子抜けだ。
シルベさんの情報に間違いが無ければ、ここから先へ行く通路があるはずなんだね。
「結構明るいのですわね。それに豪華ですわ。普段は何に使っていたのやら」
いつの間にかメアーズ様が降りてきていた、いや、飛び降りて来たんだな、この速さは。
「奥にあるのは調理場かしらね。構造を考えるとあちらが控室や客間と言ったところかしら。何となくダンスホールにも見えるわね」
言われてみると、あちこちに扉がある。上での体験があったから、絨毯ばかり見てたよ。
「先ずは調理場の確認をしないといけませんわ。ええと……バステルで良いのよね? 行きましょう」
「いや待ちなさい。なんで先に行っちゃうのよ。もし何かあったらどうするの!」
あ、やっとシルベさんが降りてきた。
こちらは慎重に鉄梯子を下りてきたようだ。見た目は若いし腕は確かだけど、もう歳だしね……じゃない、さっきまで怪我人だったからだね、うん。
「これまた豪勢な部屋だねー。それに憧れるよ。地下にこんな場所を作るなんてさ」
次に降りてきたミリーちゃんが歯を見せてニヒヒと笑う。
なんか秘密基地を見つけた子供みたいになってるぞ。
そして最後にラウスが降りてきて……あれ? ベリルはどうしたの?
そんな僕の考えが顔に出ていたのだろう――、
「ベリルは上で見張りだ。ここは入り口一つの一本道だからな」
あ、なるほど。でも上は室内とはいえ、霧も入って視界も悪い。
しかも周りは敵だらけだ。必要だとはいえ、危険な任務を任せてしまったね。
この二人にも、必ず報いたいなと思うよ。
「調理場はダメでしたわ。他を探しましょう」
そんなやり取りをしている内に、さっさっと確認したメアーズ様が部屋へと戻って来た。多分食べ物が無いかを確認に行ったんだろう。こういう点は流石としか言いようがない。
ちなみに調理場の扉の下からは赤い何かが流れ、絨毯を汚していた。
うん、僕は見ないし想像もしない事にしよう。お腹なんて減っていないしね。
「目的地は控室のクローゼットよ。行きましょう」
当たり前のように構造を把握している様で、シルベさんが先頭を進む……かと思ったら、僕の腕を握ってグイグイ押して進む。先に行けって事なのだろうか?
でも悪い気はしない。女性に頼られるなんて、僕の記憶には無いしなー……。
指定された扉を開けると、そこは簡単な休憩室だった。
そこから更に扉を開けた先は衣裳部屋だろう。大量のドレスが壁一面に吊るされ、壁には多数のタンスが並んでいる。
何気なしに幾つか開けると、まだまだ畳んだ状態のドレスが沢山入っていた。
それに女性用の下着の山も。大人用の下着の色気にちょっとドキッとする。そういやまだ、シルベさん以外はブラは付けていないんだよね。いつかはみんなも立派なレディになって、こういった衣装を身に纏う日が来るのだろうか。
「支度は出来ている? ここから先が本番よ」
もう永久に成長することは無いだろうシルベさんが、緊張したお面持ちで合図する。
少し大きめのクローゼットの奥の板を外した先。そこには回転式のロックの付いた厳重な鉄扉が設置されていた。
いよいよかと思うと同時に、また随分と凝った仕掛けだなーと感心して逆におかしくなる。
どんな気持ちでこんな所にこんな仕掛けを作って男爵様を運んだんだろう。
今はクローゼットの中のドレスは無造作に外に散らばっているけど、最初はきちんと収まっていた。これもちゃんと皺を伸ばして戻したんだよね。
誰の趣味かは知らないけれど、やらされる方は大変だよとその時は思ったんだ。
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