嘘と真実 前編

 当然、話さないといけないよね。

 だけど真実はやっぱり話せない。まだ信頼していないとかじゃないよ。心の底から信じているし、感謝だってしている。


 けど、僕がいつでも男に成れますなんて言ったら、絶対気軽に懐に入れてくれないだろう。

 体も洗ってくれないな。一緒に寝るなんて、もちろん論外だ。

 人間にとっては下らない話かもしれないけど、今の僕にとっては大切な話。何せ命が賭けかっている……多分。


 幸いこの霧だ。この世界とアッチの世界の境界が曖昧になっている状態。僕の中のみんなとも、僅かながらに意思の疎通が出来る。そんなわけで――、


 ――ねえ、誰か変わって。口の上手い人。上手い事説得してよ。


 ……だけど返事は無い。全員屍の様だ。じゃないよ!


 こういう時に限って通じないのは何かの陰謀なのだろうか? でも本当にどうしよう。

 みんな僕の言葉を待っている。正確にはバステルの言葉だけどね。

 下手な嘘は言えないし……そうだ、大切な事も伝えておかないといけないんだ。

 ここはとにかく、最後の砦である僕のこと以外はしっかり説明した方が良いだろう。

 ああ、でもそうすると……いいや、始めよう。


「我々はアルフィナ様を守る者の集団だ。だが、その詳細は明かせない。知る事自体が危険だからだ」


「今更、危険も何もないでしょう?」


 メアーズ様がじろりと三白眼で睨む。

 でも怯んじゃいけない。


「今の話じゃない。最終的にアルフィナ様を救出し、皆は日常に帰る。その時の事だ。その時、我らは秘密を知る者にそれなりの対処をしなければならなくなる」


 方法はともかく嘘ではないよ、うん。

 何があっても、テンタの秘密だけは守るのだ。


「それはわたくし達と敵対するって事かしら?」


 メアーズ様は威嚇するようにこちらを見るが、あまり感情が高ぶっていない。ブラフだろう。


「我々は味方だ、何があっても決して裏切らない。それだけは命をして守ろう。それに我らの正体など、今は意味のない話だろう」


「まあ味方であることは疑っていないよ。あたしらだけなら、どのみち生きては帰れない。だけど引く事も出来ない。最初から、そちらが敵って可能性は無いよ。というよりも、それを考えたら成り立たないんだよ」


「それは分かっていますわ。それに、確かめる術が無い状況で問答しても仕方ない話ですものね。でもテンタに関してはしっかりとしつけておいて欲しいですわね」


 うーん、あれはもう見られた処の話じゃないからね。テンタが変な生き物になる事は認めておこう。

 だけど意味もなくあのような姿にはならない事も何処かで説明しておきたいけど、余計な補足はぼろを出す可能性が高い。ツッコミが入るまでは沈黙を守ろう。


「それよりも大切な事を聞きたいのだけど――その……ラマッセは無事なのかしら?」


 メーアズ様の雰囲気がちょっと変わる。本気で心配してくれているみたいだ。

 ちょっとラマッセが羨ましくもなる。

 ちなみにラマッセの体はと言うと、まだ治ってはいないけど軽症といえる程度。今すぐ交代も出来るけど、あまり目の前で何度も変身するのもダメだろうな。


「問題は無い。ただ今は負傷中のため休んでいる。軽症なので気にするほどの事は無い」


「そう、なら良いわ」


 そう言うと、メアーズ様は安心したように二つ目の花肉を食べ始めた。幾つ持って来たんだ。


「いや、ちょっと待てよ。さっきの治療術士に頼めばいいだろ。どんな状況かは知らないが、あんたらはまとまって待機しているんじゃないのか?」


 ラウスから飛んでくるツッコミ。絶対に言われると思ったよ。

 それに絶対に今後も期待される。もしメアーズ様が重体になった時に治療を拒めば、僕は彼等に殺されかねない。

 だから説明しておかなきゃいけないんだ。嘘のね……。

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