媚薬を試そう
「お前がここの連中のボスか」
更に左右から挟み込むように牽制する2本の触手。拘束触手はもう一回剣を拾った。このまま攻撃してもいいし、囮として使うのも良さそうだ。もう一本は役立たずだけどね。
というか、もうこの姿をみんなに見られてしまった。言い訳も考えないといけないなー。
でもそれはもう良い。とにかく物事には優先順位があるからね。
メアーズ様とラウスが外から侵入しようとする連中を撃退し、ベリルは室内で抵抗しようとしている兵士を容赦なく葬っていく。
もう死にかけているやつもいたけど、その辺りは徹底していた。
まあ僕達の方が圧倒的に少ないんだ。縛っておいても仲間が巡回に来たらすぐにばれる。でも捕虜は取れないし、そもそも隠し持っていた毒針一本あれば人は殺せる。
そしてこいつらは、そういったものを持っている類の連中だ。迂闊な情は死を招く。自分だけじゃなく、仲間の命もだ。
毒……ここでふと、ある事を思い出した。
僕にはもう一本触手がある。エリクセンさんの注入触手だ。
たしか媚薬を注入して苦痛を和らげるんだったかな? ただ分量の調節が大変だと聞いていたから、僕にはまだ使えないと思っていたんだよ。
薬っていうのは分量を間違えると毒にもなっちゃうからね。
それに触手自体も藁のストローのように細くて、案外デリケートな触手なんだ。
これをシルベさんに注入すれば、苦痛を和らげることが出来るんじゃないだろうか?
いやでも待てよ、僕はド素人だぞ。失敗したらどうなるんだ?
……試すしかない。
さっき壁に掛けてあった斧を取ろうとしていた男を背中から斬った。
傷は背骨まで達していて、まだ生きているのが不思議なくらいだ。
うん、こいつにしよう。万が一パワーアップするようなことがあっても、あの背中の傷なら問題になる前にどうにか出来るだろう。
だけど対処不能なほどの超変化をしたら? いやいや、そもそもそんな危険な液体を女の子に注入しないだろう。元々はそのためなのだから。
コッソリと足首から注入触手を伸ばし、死にかけの男の足に刺す。
分量はどうだろう? あの時
これは僕の予想だけど、苦痛を和らげるって事は麻酔効果もあるんだと思う。媚薬というものを知らないので勘ではあるけど、家畜の麻酔薬とそう変わらないんじゃないかな?
となれば、多すぎれば多分そのまま昏倒して死ぬんだろう。
実験に使う申し訳なさは、それでチャラかな。
まあ考えても仕方ないので、試しに水玉2つ分を注入する。
――効果は直ぐに現れた。
「ああああああああああああああああああああ!」
死にかけの男の何処にそんな力が残っていたのか!?
そう思うほどの絶叫。部屋にいた全員が注目する。
まるで陸にあげた魚のようにびくびくと跳ね回ったかと思うと、仰向けになり、天へ向けて股間を突き立てる。
それはまるでズボンを突き破るかのように直立し、男の腰は届かない天井に向けてビクンビクンと跳ね上げる。
「うああああああ! あっあっあああー!」
そして動作と共に上がる絶叫。いつの間にか、ズボンには生臭い液体の染みが広がっていく。
それでも男の叫びと腰の動きは止まらない。目を見開き、全身の血管を浮き上がらせ、背中からは大量の血を吹き出しているのに、それでもただ無心に腰を振る。
……いきなりシルベさんに注入しなくて良かった。
僕は心の底からそう思っていた。
「これは……毒か!?」
丁度向かおうとしていたベリルが、驚いた小動物の様にバックジャンプ!
「メアーズ様、ミリー殿、お気を付けください! 毒使いが居ます!」
……ごめんなさい。
「この霧に見た事もない化け物たち。本当に、何が起きても不思議ではありませんわね」
警戒するメアーズ様に呼応して、ミリーちゃんは粉のような物を部屋に撒く。
「毒虫かもしれないから、一応撒いておくね。対魔蟲の効果はあるけど、高級品だからそう何本も無いよ。それに効果がある保証もないから、その辺は自己責任でよろしく」
「あああああー! あわぁっ! あっ! あっ! あっー!」
股間から吹き出しているであろう体液は、いつの間にか血の匂いに変わっている。
周囲で巻き起こる阿鼻叫喚の地獄絵図。
なんだかものすごい失敗をした気がして気が滅入る。本当にお騒がせして申し訳ない。
だけどどんなに偉い人でも、失敗を繰り返して成長するんだ……きっと。
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