宿場街道
メアーズ様の指示で、皆集まって薪を囲む。
やっぱりこの周囲の薪は湿気ているが、火種はちゃんと持ってきた。
煙は酷いものだったけど、それも木が渇いて来れば収まってくる。
「まさかここで昼食を取る事になるとは思いませんでしたね」
そう言いながらも、ラウスは
これは元々、侵入前の最後の食事用として持ってきたものだ。まあ一応は帰りの分なんかも考えて余分に用意してきたから問題はないけどね。
「この辺りはどの辺りかな?」
ミリーちゃんも食事をとりながら簡単な地図を確認するけど、現在位置が分からなければ何の役にも立たないよ。
なんて思っていたのだけれど、
「ああ、ここからは真っすぐ下るだけだ。多少速度を出しても大丈夫だろう。夕方には三差路に到着するな」
ベリルが意外な土地勘を発揮したので驚いた。
どうして分かったのかを知りたいところだけど、聞けないのがもどかしい。
一方で、メアーズ様もミリーちゃんの胸元に入った僕をチラチラと見ている。
理由は明白。だけど今の状態で人になることは出来ないからね。申し訳ないけど、もうすこしやきもきしてもらうしかない。
「今更ですが、わたくし達の目的はアジオスにいるコンブライン男爵の救出ですわ」
うん、それは分かっているよ。
本当は僕だけでも先に城塞の町ケイムラートに向かいたい。だけどそれじゃだめだ。
絶対に魔物がいる。それにまた使徒っていうのに出くわすかもしれない。
僕にはまだその存在がよく分からない。だけどちょっともやもやする。それが何なのかも全く見当もつかない。
全部終わったら勉強しよう。独学もありだけど、出来れば詳しそうなミリーちゃんに教わりたいな。
その為には何か代償が必要だ。町の何処かで日雇いの仕事でも探そうか。
でもそんなことをしていたら、アルフィナ様に心配させてしまうかな……。
「――以上が作戦ですわ。何か質問は?」
「我らはメアーズ様の作戦に従います」
「進言するほどの知識もありませんしね」
「あたしもそれがベストだと思うよ。どうせまともな手段でどうこうできるとも思えないしね」
すみません、全く聞いていませんでした。質問どころじゃありません。最初から説明してください。
そんな無言の反論など無視して、一行は静かに山を下ったのだった。
〇 ● 〇
それでここが三叉路地点か。
3つの道の合流地点。西へ行けば城塞の町ケイムラート。東へ行けばアジオス。確か小さな町だと聞いている。そして北が僕らの来た方向だ。
3つの街道が合流する地点なので、ここには店を含めた沢山の家屋がある。
町というほどじゃないけど、ちょっとした村を超える規模だね。
ただ霧はかなり濃くなってきた。でもパケソほどじゃない。アルフィナ様がこちらに来なかったから、影響が少ないんだろうか?
時間は夕方過ぎ。霧は薄くても暗く、これ以上進むのは難しそうだ。
「宿泊できるところはあるのかしら?」
「こういった場所ですからね。必ずあるはずですが……」
僕の能力で周囲を確認しても、開いている店がない。
こういったところは休憩所でもあるけど、必ず怪我人や体調が悪くなった人、それに何かの事情で町に入れなかった人の宿泊施設がある。
時間を考えても、普通なら開いているはずだ。普通ならね……。
「屋根とかまどと食料があれば十分ですわ。店らしい所に入ってみると致しましょう。襲ってくるものがいたら躊躇の必要はありませんわ。たとえそれが、人の姿をしていたとしてもね」
メアーズ様が物騒な事を言いだしたけど、異論をはさむ人間はいない。
全体を把握できるほど僕の探知は広くないけど、おおよそ20軒くらいだろうか。どれも何らかのお店だ。
更にその裏には民家が数軒並ぶ。この霧と闇の中、全軒確認して回るのは不可能だ。
そんな訳で、「常識的に考えればここだろう」というベリルの案内に任せて進むと、確かに宿屋のような場所があった。
よく分かるなーと思うけど、まあどこも利便性を考えて並んでいるからね。
馬を留める
生存者の方が居たらすみません。いきなり襲い掛からないでくださいね。
間違いなく、容赦ない反撃が返ってきますから。意識があるなら、先ずは言葉からでお願いします。
だけど中は無人だった。まあ
好意的に考えたら、みんな逃げたんだ。
コップランドの町に行ったのはミリーちゃんだけだったけど、まああんな山奥の町には普通は行かないよね。
多分異変は城塞の町ケイムラートから始まった。なら多分、この辺りの人は霧と謎の病、それに怪物に追われてアジオスに逃げたのだろう。うん、そういう事にしておこう。
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