使徒とは 前編
消えていく意識……いや、ダメだ!
僕が長時間寝ていると
でも体は動かない。本当にバラバラになった感覚だ。あれはいったい何だったんだろう?
まあ正直、二度と体験したくはないね。
どことなく情緒不安定なメアーズ様が僕を拾おうとするが、ひょいと先に拾ったのはミリーちゃんだった。
そしてそのまま僕を胸元へと放り込む。柔らかな温かさに包まれて、傷ついた心が癒されていく感じだ。
「使徒が死んだ……で良いのかな?」
ミリーちゃんの驚きが伝わってくる。確かに強敵ではあったけどね。
でもその驚きも一瞬。頭を振って意識を切り替える。
「でも油断は出来ないか。とにかく移動しよう。いいよね?」
「……そうですわね。この位の霧なら馬に任せれば進めるわ。先ずは進みましょう」
かなりの不満を持っている感じのメアーズ様だったが、ここは素直に従った。
護衛の二人は言うまでも無いね。
こうして僕達一行は、霧の中を馬に任せてゆっくり進む事になった。
山道とはいえ整備された街道だ。まあ注意していれば迷う事は無いだろうね。
僕は今の内に、久々にミリーちゃんの柔らかなお腹を堪能していよう。
「我々は使徒というモノを見るのは初めてですが……あれは結局何だったのですか?」
移動中、若い薄茶の髪をした兵士――ラウスがミリーちゃんに尋ねた。
うん、僕も聞きたい。だけど今は体を動かす事すら無理だ。というか、こんな所で変身したら大惨事だね。ミリーちゃんの服とか僕の立場とか色々と……。
「そもそも、使徒とは何なのですか? 魔物の一種なのでしょうか?」
腕利きのベリルも同様に尋ねる。やっぱり二人とも知らないのか。
「使徒とは神の信徒。わたくしの知識もその程度ですの。ましてや、見ただけでそれが解るのは……」
霧でシルエットくらいしか見えてやしないけど、ちらりとメアーズ様がミリーちゃんを見る。
「まあ説明しないとだよね。別に隠していた訳でもないし、極秘情報って訳でもないよ。ただ、普通の人は会わないし、出会えば生きてはいられない。そういった存在さ」
「その割には、俺達は誰もやられてはいないぞ」
そう言ったラウスの肩を、ベリルの
メアーズ様は沈黙している。間違いなく消えてしまったラマッセの事を気にしている感じだ。
一応、傷は深くなかった。しばらくすれば良くなるだろうし、治療すればもっと早いだろう。
まあ、その治療が難しいんだけど……おっと、話が脱線しちゃったね。ちゃんと聞いておかないと。
「それは何とも。運――なんてものじゃないわね。あの時ラマッセが飛び込んで、何かをした。おそらくテンタが鍵なんだと思う。というより、そう言われたんでしょ?」
「ええ。今の状況を打開するにはテンタが必要だと。そして、アルフィナが今相手をしているのが使徒で、そこにテンタを連れて行く。今の段階で分かっている事なんて、この程度ですわ。そもそも、使徒の説明もされていませんわよ。そういった名前の魔物かと思っていましたもの」
「使徒に関してはおいおい話そうと思っていたんだよ。男爵を救出してからでも遅くは無かったからね。それと、そのテンタの部分に関していえば、正直に言えばあまり期待していなかったんだよ。でも実際に見てしまうと考えを改めるしかないねぇ」
そう言いながら、服の上から僕をぎゅっと握る。大切なものがちゃんとあるかを確認する様に。
それにしても、ミリーちゃんの手は小さいし、メアーズ様の様に怪力じゃないからほっこりするよ。
「ミリー殿が見たという使徒にもテンタは有効だと?」
「効かなかったらお手上げなんだけどね。まあそれでもあたしは行くよ。契約だしね」
「こちらはお手上げではすみませんわ。相手の正体が分かっているのですから、出来る限り詳しく知りたいですわね」
その意見に、2人の兵士も同意する。当然僕もさ。
「さっきメアーズ様がちらりと言ったけど、使徒ってのいうは神の信徒。だけど普通に崇めている連中じゃない。神そのモノの一部だよ」
その言葉に、少しドキリとする。もし口があったら、絶対に話を遮って質問していただろう。
「神の一部だって? あのでかい蜘蛛がか?」
「大きさや形なんてのは意味がないのさ。何か意味があってあの形をしていたんだろうけど、明日見たら違う姿になっていたかもしれないね。というより、大抵は何処かに神の一部が付いているんだよ。それが本体とは考えられているけどね」
「ねえ、ちょっと待って。それじゃあ――」
「その事はさすがに極秘事項だよ。今は省いて欲しいな」
それは間違いなく、アルフィナ様の事だ。彼女の右目にいるヴァッサノの欠片。それはラマッセが言っていた。
じゃあアルフィナ様は……使徒なの?
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