祝福と呪い
コップランドの町から緩やかな山道を下りながら一行は進む。
曲がりくねっているので距離はあるけど、このところ雨は無かったようだ。
地面の土が堅い分、馬は本来の力でグイグイと進む。
「霧がない分、本当に楽に行けますのね」
ここから城塞の町ケイムラートとアジオスの町へと繋がる街道に出る。
どちらかの町への直通ルートがないのは、ケイムラートがその名の通りの守りの町だからだ。
余計な道は無く、街道の西と東にしか接していない。
アジオスの町の直行ルートが無いのは、単純に利便性の問題。
余計な回り道をするよりも、素直に街道に出てしまった方が良いって事だね。
距離はある程度曲がりくねっているから正確には分からないけど、多分50キロメートルくらいじゃないかって言っていた。空を飛べればもっとずっと短いけどね。
ちなみに街道の合流地点までの距離だよ。そこから先はどちらに行くかで変わるけど、僕らは当然ながらアジオスの町へと行くことになる。
目的は言うまでもなくコンブライン男爵の身柄。
彼等の神が再誕するために必要だと言うのなら、先に確保してしまえばいい。
直接的にどうこう出来なくても、こうして邪魔をするのも力無き者の戦いだ。
ただミリーちゃんの話だと、奴らは死体でも構わないという。
ならこちらも、最低でもご遺体だけは回収しないといけないわけだ。気が重い……。
距離があるとは言っても馬の速さならすぐだ。
だから今の内に、僕はメアーズ様にいくつか聞いてみる事にした。
「メアーズ様に幾つかお尋ねしたいことがあるのですが?」
「必要な事でしたら構いませんわよ。いざとなってから聞かれても困りますし」
「その……ギフトの事です」
「ああ、それですの」
神の呪い。神の祝福。両方ともギフトと呼ばれる。メアーズ様はどっちだろう? 何となくだけど、祝福とは感じていないような気はしているけど。
まあ実際に神様が関係しているかは分からない。要は才能だよ。異能と言ってもいい。
産まれた時から持っている人もいれば、後天的に得る人もいる。
魔法的な何か、精霊の悪戯、神の気まぐれ……実際には色々と理由があって神様は関係ないかもしれないんだけどね。でも世界の
どちらと感じるかは……本人と周り次第だね。
「わたくしも幼い頃は信仰深かったのですわ。“神に愛された清純なる乙女”なんて呼ばれた時期がありましたのよ」
「え、それはまた無理が……」
腰に回した手に力が入り、骨がメキメキと悲鳴を上げる。
「何か文句でもありますの?」
「いえ、何でもありません」
「確か7歳か8歳の頃、アステオ神の神殿で祈りを捧げておりましたの。寝食を忘れ、2日か3日か……それ以上かもしれなかったですわね」
普通、そんな事をすればもっと記憶はハッキリしているはずだと思う。
だけど余計なツッコミは身を亡ぼす。と言うかもう僕の骨がヤバい。ここは素直に聞いていよう。
「でも、わたくしは正確には覚えておりませんわ。気を失い倒れていたそうですの」
ああ、それでか。余計な事を聞かなくて良かった。
「それでその時からその怪力……ではなくギフトが?」
「……神殿に納められていたアステオの爪の欠片。厳重に保管されていた容器が粉々に砕かれ、中身は空だったそうですの。何者かが奪った。アステオの欠片が本体の元へと還った。色々と噂されましたが、わたくしの変化もその事からですわね」
その頃から暴食と暴飲、それに怪力になったのかな。なんにせよ、彼女の場合は本当に神が関係していそうな気もするな。
「今のわたくしは、本当にわたくしなのか……それとも怪物なのか……」
「貴方は間違いなくメアーズ様ですよ……僕が保証します」
いやごめんなさい。正直に言えば何も知らないんです。
でも本当の事は言えやしない。ここは素直に誤魔化すしかないよ。
でも何となく、メアーズ様がしがみ付く力が強くなった気がする。だけどさっきまでと違って、優しい感じがした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます