ミリーちゃんと合流

 町長宅は2階建ての木造。外壁だけはモルタルが塗られているけど、後はレーヴォ村の村長宅とあまり変わらない。1階は5部屋、2階は3部屋程度だろうと思われる。

 ただ1階には客室が用意されており、そこでは怪我をしたミリーちゃんがベッドの上で手を振っていた。

 魔術師の鑑札と聞いて予想はしていたけど、やっぱりだったか。


「いやー、久しぶりだね。なーんて、そんなに時間も立ってないかー。それにしたって驚きだよ。なんでメアーズ様がここに来ているの?」


 白い下着と包帯、それに上からかけている夏布団だけの軽装だ。ラウスとベリルの兵士二人組はすぐさま追い出された。

 というか、メアーズ様が睨みを効かしただけだけどね。

 頭と右腕、それに肩から左脇へと包帯が巻かれているけど、見た所重症じゃない。先ずはホッと一息だ。


「色々ありましたのよ。今はこの方と共にアルフィナの所へ向かっている所ですわ」


「冗談でしょ? メアーズ様を残した意味、分かっていないはずないよね?」


 今なら僕でも分かる。形式上はともかく、彼女の家――サンライフォン男爵家はセンドルベント侯爵家の配下みたいなものだ。

 アルフィナ様に付いていったところで、侯爵家の意向には逆らえない。


 あまり意味はないとはいえ、まだコンブライン家で人質的な事をしていた方が全ては丸く収まったのではないだろうか? あくまで貴族社会的にはね。

 だけど現実はそれどころじゃない。いや、なくなった。

 あのままのんびりとお屋敷にいたら、きっとすべてが手遅れになっていたと思う。だから今は正解だ。ここに来てよかった。


「まあ、当初の予定と大きく変わったことは認めますけど……何はともあれ、今はテンタをアルフィナの元へと届けますわ。そういう契約を結びましたの」


神の呪いギフト持ちの貴方と? 誰よ、その命知らずは」


 僕です。と言うかなにその物騒な二つ名。そういう事は最初に言って、お願いだから。


「詳しい事は不明ですが、まあテンタの飼い主とでもいった方が良いのかしら?」


 ――と言いながらちらりと僕の方を見る。なんか変な事を知ったせいか目が怖い。

 というかマズいよ! 今は霧が無い。テンタを渡せって言われたら一発でバレる。それはもう、誤魔化しきれない。

 つか何とか誤魔化そう。


「テンタの飼い主はあくまでアルフィナ様です。私はあくまで、テンタを彼女の元へと届ける手助けにすぎません」


「へえ……まあそれで良いわ。それにしても神学士ねぇ……状況はもうそんなにひどいって事かぁー」


 両手を上げて「うーん」と背を伸ばす。

 あ、この子もう起きる気だ。確かにそれ程の重傷ではないとはいえ怪我人だ。無理はしないで貰いたいけど協力して欲しい事は山ほどある、それに何より、アルフィナ様の事を聞かなきゃいけないよ。


「ここじゃなんだし、別の場所では無しましょう」


 そう言いながらミリーちゃんはベッドから降りた。

 いやその前に服を着て。護衛の人たちの目が潰されちゃうよ――メアーズ様に。





 〇     ▲     〇





 軽くガウンを羽織ったミリーちゃんと2階へと移動。もちろん、町長さんには話を付けた上でだよ。

 人払いも済ませたけど防音なんてあまり考えていない建物だからね。慎重に行かないと。


「それで、何がありましたの? アルフィナは?」


「全部話さないとだめだよねー。それに神学士がいるって事は、もう中央が動いたって事でしょう?」


「それに関しては……なんともね」


 そう言いながらメアーズ様がちらりと僕の方を向く。説明しろって事んなんだろうけども……。


「中央は一切関係ありません。これは極一部の人間による行動だと思っていただいて結構です」


 極一部も何も僕一人だし人間でもないけどね……。


「何とも奇妙な状況だけど……それでテンタは?」


 ――来た!


「今は外で待っています。少しは自由にさせないとストレスが溜まりますので……」


「そお? まあそれならいいど」


 メアーズ様は”え!?”という顔をしたけれど仕方がない、押し切ろう。


「それでアルフィナ様は、今どこにおいでなのかしら?」


 そうだ。なんでミリーちゃんはアジオスの町の方から来たの?

 アルフィナ様は、実際には今どこにいるの?

 パケソや他の町の異変の原因は? あの先の町は? 聞きたい事は山盛りだよ。


「そうね。先ずはこちらの状況を説明しておいた方が良さそうか。OK、説明するよ。どうしてあたしがアジオスから来たのかもね」

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