目的地変更

 東の強大な力は、間違いなくアルフィナ様かそれに関係した力だと思う。

 そして西にだけ伸びて来ている。北や南には感じない。予想でしかないけど、多分東も無さそうだ。

 これはきっと、アルフィナ様が通った所に影響が出ているんだと思う。

 でも遅かれ早かれだよ、きっと。時間を置けば、北も南も、全部が飲み込まれてしまうだろう。


 そうなると、ここから東へ行けばその中心部。アルフィナ様がいるとは思うのだけど、あの異様な空間に突入して突破する……無理だろうなー。


「北か南、どちらかを迂回しないとだめです」


「理由を教えていただけます?」


「東になにか強大な力を感じます。そしてそれは西へと街道沿いに進んでいるのです。あの中を突っ切るのは、現状では不可能でしょう」


「そう……もうそんな状況なのね。時間が無いって話も、今更ながらよく分かったわ」


 そういうと、決意を固めた表情で馬車の荷台の方を向き――、


「ラウス・ドズワルト、ベリル・ヘクシン。ここまでよくぞ付いて来てくれました。礼を言います」


「今更どうしたのですか、お嬢様」

「我らはとうに命など投げ打っております。それに、今更戻れなんて無理ですよ。この霧をどうやって抜けろと言うのですか?」


「……そう言って貰えると助かるわ」


 二人の忠義にあふれた言葉を聞き、メアーズ様はにっこりと微笑んだ。

 これが主従の絆というものなのだろうか、僕もじんわりと目頭が熱くなる。

 さて、急いで準備を開始しないとね。





 直ぐにメアーズ様の指示の元、積んでいた水と食料を馬車から降ろす。

 そして保存食の塩を落とすと、そのまま露店に残っていたかまどを利用して焼き始めた。


「5日。そう、5日分ですわ。それだけ支度したら残りは捨てていきなさい。馬車もよ」


 そう言いながら、焼いた肉をもりもりと食べる。それを見て、慌てて自分達も支度を始める二人の兵士。何となく、まごまごしていたらメアーズ様が全部食べてしまうからって感じがしたよ。


「山道を通ってコップランドの町へ移動。そのまま下ってケイムラートとアジオスの中間点に向かいますわ」


「コップランドの町で補給は出来ないのでしょうか?」


「出来ればそれでいいけど、出来ませんでしたではすまないわよ」


「そりゃ確かに。無事であることを祈りますけどね」


 ケイムラートは言うまでもない、目的地、城塞の町ケイムラートの事だ。アジオスはそこから更に東へと向かった先の町。今回の予定にはなかったところだね。

 東から西へと変異が拡大しているって事は、逆から行けば確かに可能性はある。

 だけど結局は問題の中心部――アルフィナ様の居場所にはいかなきゃいけない。そこまで付き合わせてしまって良いのだろうか……。


「これには男爵家の未来が掛かっています。目的はアルフィナの奪取。そのために、テンタを彼女の元へと運ぶこと。いざという時はわたくしを見捨てなさい。兄さえいれば、男爵家は立て直せる。それが約束ですものね」


 そういって、真剣な瞳で僕の方を見る。いや霧で見えないけど、お互いの位置はなんとなく把握しているからね。

 つかそんな約束だったかな……。

 どうしよう、今更無理ですは許されそうにない。しかも万が一メアーズ様に何かあったら、あの兄やこの家臣たちが黙っちゃいないぞ。


「ご心配なく。必ずやご期待に応えましょう」


 だけど結局僕は、そう言うしかなかったんだ。

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