違う世界

「このままパケソまで向かいますが、状況が変です。少し様子を遠くから伺えるような、そんな場所は無いでしょうか?」


 そういいながらも向かうしかない。その為に、僕らはここまで来たんだからね。

 だけどこの街道を真っ直ぐ行けばきっと全滅する。それは僕の直感だ。だけどただの直感じゃない。この神学士、ラマッセの体がそう感じている。

 でも心は焦りまくるけど、いい方法が何も思い浮かばない。


 ――どうしよう。何か言い訳を作って止まるべきだろうか?


「北の山岳路に街を一望できる場所がある」


 そろそろ動けるようになったのだろう。負傷していたベリルが起き上がってきた。

 このタイミングは本当にありがたい。


「以前、2人目の彼女と逢引きデートした時に使ったんだ。馬車でも登れるはずだ」


 ええと、余計な事まで口に出しちゃうタイプの人かな?

 それにこの霧の中である。状況を分かっているのだろうか?

 なんて思うけど、そういや僕が何処までこの霧の中を見通せるのかは知らなかったな。話してないし。

 正直に言えば無理。反響定位エコーロケーションは、そんなデートで楽しむような眺めのいい場所で通じるほど効果範囲は広くない。どちらかと言えば、狭いほど良いんだよね。


 でもそれを説明する事は難しいし、まっすぐパケソの町まで進むよりはいいだろう。

 寄り道をする言い訳が出来たと考えれば、物凄く有難い事だよ。


「ではそちらへ向かいます」


 そう言って進路を変える。

 町を一望できる観光地となると、それほど離れてはいないと思う。

 道も登りにしてはきちんと舗装されていて、馬車でもすんなり進むことが出来た。

 有難い事だと思う……ここまでは。


 登り切った先は、幾つもの石のベンチが並ぶ広場だった。

 石とレンガの柵が設けられ、その向こうには中規模ながらも派手に賑わっている交易の町パケソが見えるのだろう。今は霧で見えないけど。

 露天商などのブースも多く設置されていて、普段は多くの人がいるんだなって感じはする。

 だけど今は誰もいない。当然か。こんな霧の中、ここまで来るもの好きはいないよね。


 ここから町までは大体2キロ程。眺めるにはいい感じだ。

 そう、分かる。見えないのに分かってしまう。視界はもちろん、反響定位エコーロケーションも届かない。

 だけど、それでも感じる。あそこはもう、こっちじゃない。世界に出来た亀裂? それとももう、世界が入れ替わってしまった? 正しい事は分からない。

 でも感じるんだ。向こうがもう僕らの知っている世界じゃない事を。


「ムズムズするわね。神学士の貴方なら、もっとはっきりわかるのかしら? ねえ、あそこに神でもいるの?」


「いえ、あそこに神はいません。もしいたら……」


 ――僕らはもう、この世にはいない……。


「そう。ならアルフィナはまだ無事なのかもしれないわね」


 そ、そうだ。何を呆然としていたんだ、僕は。やっぱりメアーズ様の方が、僕よりもずっとしっかりとしている。

 改めて感じとると、東に何か強大な力を感じる。そこから西――つまりこっちに向けて、その力の一端が流れてきている感じだ。


 それはゆっくりだけど、確実に伸びている。このままでは、そう遠からず境の街アレクトロスも飲み込まれるだろう。

 いや、もうかなり影響が出ているじゃないか。もう本当に、時間は残れされていないんだ。

 そしてその先は……メアーズ様のお兄さんたちが駐屯しているランザノッサの町。

 僕らは本当に、間に合うのだろうか。

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