戦友の店
外から見た時は狭かったけど、中に入ってもやっぱり同じだ。
そして中はと言うと、それとほぼ変わらない。カウンター席に加え、4人位で囲むテーブルが6つほど。
客室とカウンターの奥に暖炉があるけど、カウンターの方は厨房用って感じの作りだね。色々と調理に使うのだろう。
霧で冷えているせいか、夏にも拘らず客室の暖炉にも火が入っていた。
確かに濃い霧のせいか、寒いとも感じる気温ではある。でも僕らの他には誰もいない。
薪はそれなりに貴重品だ。特にこの辺りは平野だからね。幾ら冷えてきたとはいえ、この季節に暖炉に火を入れるのはちょっと不思議な感じもする。
それ程繁盛しているとも思えないけど、これから常連でも来るのかな?
「よう、ケイルバート。今夜世話になる」
一緒に来た護衛の戦士が、カウンターにいた大男に声をかける。
「やあ、ラウス。
ケイルバートと呼ばれた男性は、年のころは30を超えているくらいだろうか?
少し笑みを浮かべた細目に小さな丸眼鏡。肩まで伸ばした茶色の髪は、あまり手入れされていない馬のたてがみの様にぼさぼさだ。
顔は少し面長だけど、それに合わせる様に背も高い。180の後半くらいかな?
でも戦士の体はしていない。まあ、大きい人間が全員戦士になるわけじゃないけどね。
「先ずは食事にしましょう。適当に頼むわ」
そう言ってさっさと座るメアーズお嬢様。いつもの堂々とした態度に変わりは無いな。
「では我々も失礼しましょうか」
そう言ったのは最初に店主に声をかけた男。名前は――ラウスでいいのかな?
匂いからして20代前半。浅黒い肌は、どことなく物語に出てくる海の男を思わせる。まあ、実物なんて見た事は無いけどね。
ただ僕の感覚器官は人間よりは鋭い。僕が自覚していないだけで、海を感じているのかもしれないな。
色素の薄い茶色いショートのボサボサ頭に少し大きめな瞳もあって、実際よりも若く感じられる。
背は170前半。体格は兵士らしく鍛えられている感じだ。外見と弾むような口調から、気さくな性格と見た。
もう一人、無言で座ったのは護衛のもう片方。
背はちょっとだけ高いかな? 177か178センチくらい。体格も似たようなものだろうか。
歳は20代中頃のような気もするけど、単に少し老け顔でもう一人と同い年かもしれない。
少し長めの焦げ茶の髪に鋭い赤茶の瞳。雰囲気からすると、最初の彼よりも兵士らしい感じがする。
二人とも革鎧に金属補強された肩パット。それに腰には少し長め――柄まで含めて150センチほどの馬上剣を左腰に下げている。
騎乗していた時は、こちらの彼は馬上槍も持っていた。とはいえこちらは140センチほどの
丁度三人が座った所で、カウンターから肉の串焼きを盛った皿と蜂蜜入りの果実酒が4人分運ばれてくる。いや普通にメアーズ様にお酒を飲ませないでください。というか、それが彼らの普通なのかな?
北の寒い地方だと子供でもかなり度数の高いお酒を飲むそうだし、船に乗る人は度数の低いアルコールを普通に飲むと聞くしね。
「いやー寒い寒い。こう霧が出ると、体の芯まで冷えますな。とても夏とは思えませんわな」
そして最後に御者をやっていた人が来て全員集合。馬車の点検から馬の世話まで全部やってきてくれた人だ。
年のころは30代後半くらいかな? 茶色い髪に濃紺の瞳。堀の深い顔で、身長は二人よりも少し低い。170センチくらいかな。
装備は皆と同じ革鎧だけど、御者用の黒い外套も身につけている。夏場だと暑いけど、馬を高速で走らせていると、あれくらいは必要になるんだ。
腰に小剣を挿しているけど、あれは護身用って所だろうか。
兵士二人の馬上剣もこんな所じゃ使えないし、戦いになったら……いやさすがに無いか。
さすがに外も厩舎も寒かったようだけど、僕はメアーズ様の懐の中だからぬくぬくだよ。
テーブルを囲む人間が増えた事もあって、料理も酒も次々と運ばれてくる。一人で切り盛りしているのは大変そうだけど、他にお客もいないから大丈夫なのだろう。
「ここはカレッサの町に行くときも利用しましたのよ」
「そういえばベリルが来るのは初めてだな。ケイルバートも元々は俺達と同じサンライフォン男爵に仕えていた兵士でね」
そう、最初に入った茶色いショート髪の兵士が紹介する。
へえ、という顔をしたのはもう一人の兵士。御者は知っているという感じだな。
と言うと、兵士のもう一人の名前はベリルかな? 一応、覚えておこう。
「昔の話ですよ。今はここで落ち着いています」
知り合いだったのか。それで迷わず選んだわけね。確か今の状況で、見ず知らずの宿を利用するのはちょっと怖い。
そんな会話の合間にも、料理は次々と運ばれて来る。
出来る料理は肉、肉、肉にわずかの野菜、そして肉。メアーズ様に合わせているのか? という訳でもなく、やはり働き盛りの兵士は肉をよく食べる。
多少の会話以外は、食器の音や食べたり飲んだりする音、そしてたまに暖炉の薪がはじける音だけ。
満席ならもっと賑やかなんだろうけど、なんか静かすぎて不気味だ。
それにしても、僕の感覚だと匂いだけでなく味までわかる。まあ食べたいとは思わないんだけどね。
出てくる肉は豚だろうか? だけどちょっと違う。少し鶏肉的な味も感じる。淡白だけど肉汁も多く、生前なら好物になったかもしれない。
もちろん、手が出る値段であればだけど。これだけの品だと、結構値は張りそうだ。
でも何の肉だろう? 今まで見たことが全くない。
いやいや、もちろん人間の肉じゃないよ。霧の中、無人の宿で出てくる大量の怪しい肉。ちょっとホラーな感じもするけど、それとこれとは別だね。
香りで味覚が判る感覚上、実は僕は人間の味も分かってしまうんだ。
でも食欲があるわけじゃないし、直接食べたわけでもなかったからね。“人間ってこんな味なんだー”くらいにしか思わなかったよ。
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