神々の再誕

 改めて言われると、全身に震えが走る。

 こんな姿になったけど、僕の心はまだ村人であった頃と変わりは無いんだよ。なんだかんだで、のんびりと暮らしていたからね。


 だから世界の異常の原因なんて考えもしなかった。

 ただアルフィナ様の元へ行きたかった。そしてこんな危険な場所から離れよう。そう考えていただけなんだ。


 なのに、この異常な状況が神によるものだって?

 そしてその中心にいるのが、他でもないアルフィナ様だったなんて……。

 逃げ場なんて何処にもない。何処へ行っても、異常の中心にはアルフィナ様が立っているんだ。


 今の世の中の変化を、おかしいと感じている人は多い。ここの病人たちは当然だろうし、出発地点のカレッサの町もおかしかった。

 でも彼らだって、その原因なんて思いもよらなかったと思うよ。

 なのにそんな中、まるでその事を知っていたかのように落ち着いている人がいる。

 メアーズ様と、その兄であるグレイスさんだ。


「この地でか……そんな予感もあったがな。なあ、そんな事になったらこの世界はどうなる?」


 まだベッドの上に座ったままだけど、元気になったグレイスさんが尋ねる。

 でも、そりゃ気になるさ。この国には休眠中とはいえアステオがいる。隣の国には活動中の女神ヤーン。そこにヴァッサノ? 冗談じゃないよ。


「どの神が再誕するにせよ、この周辺――いや、この大陸程度の範囲ならば新たに作り変えられるでしょう。地形も、生き物も、何もかもその神に合わせて変わる。完全なる変容です」


「そんな事になったら人間はどうなる?」


「当然、巻き込まれれば命を落とすか、何かに変わるでしょう。魔物になるか、それとも木や、石になるかもしれません。それに先程名が出た様に、この大陸には既に先住する神がいます。それらの神と争いを開始すれば、周辺の大陸にまで影響は波及します。当然、そこにいる別の神も巻き込むでしょう」


「結局、わたくし達などが動ける範囲なんて、その程度って事ですわ」

「逃げ場なんてないのかよ……」


 どう考えても良い事が起こるわけがない。世界の終わりすら感じさせる。

 あれ? だけどどうしてもちょっと変な感じが有る。そうだ――、


「でも一つ話が見えませんわね。復活しようとしているのはヴァッサノで良いのよね? 他の神の話は何なの?」


 そう、僕が知りたかったことをメアーズ様が質問する。

 そうだよ、単純にヴァッサノが復活しようとしているって話じゃないの?

 まあそれだけでも頭が痛くなるけど、ちょくちょく出て来る他の神に関する話が分からない。


 最後の一人の処置を完了すると、ラマッセはメアーズ様の方を向く。直視と言ってもいい。

 真剣にその瞳を見据えながら、


「今一番再誕に近い神はヴァッサノである事。それは間違いありません。ですが、他の神々も黙ってはいない。長い時間沈黙していた別の神もまた、ヴァッサノが再誕する力と状況を横取りして自らが再誕しようと企む者もいる」


 神ってそんなに色々と考えるモノなの?

 あんなに強大なんだから、もっと単純化と思っていたよ。それじゃあまるで――、


「神ともあろう存在が、そんな姑息な人間の様な真似事をするのかしら?」


「神の考えも力も、人など及びも尽きません。人にとっては策略と感じても、神にとっては自然の行いに過ぎないのかもしれません。さて、実はここからが本題です」

 

 誰も一言も発せず、次の言葉を待つ。


「再誕しようとする神々に対し、それを阻止しようとしている神々もいます」


「人間の為ですの? そうでしたら、教会を建ててその神を崇めて差し上げますわ。寝ているだけのアステオより、よっぽど話しが通じそうですもの」


 全くだね。


「その理由が人の為とは限りませんよ。単に、今の自分には再誕の力が無いから邪魔をしているだけかもしれません。ですが、今はその神の力に頼るしかないのです。そうしなければ、最低でもこの大陸にいる人は滅びるでしょう」


「話の概要は分かった。だが、我々は何をすればいい? その神の威光を信じて、ただ祈ればいいのか?」


「ここに――」


 そう言って、ラマッセは左手を上げ、掴んでいるように見える僕を高々と掲げる。

 え!? いきなり何?


「ヴァッサノの再誕を阻止するため、神が遣わした生物があります」


 もちろん、それは言うまでもなく僕の事であることは疑いようもなかった。

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