成立した協力関係

 これは……ちょっと予想外の反応になってしまった気がするよ。

 エリクセンさんを選んだのは、バステルよりも威厳がありそうだったからだ。

 バステルは狼のように精悍で筋肉もすごい。たしかに強そうだけど脅すわけじゃないからね。

 ただそれだけだったのに、いきなりひざまずかれるとは夢にも思っていなかった。

 でもこれからどうしよう……いやいや、難しく考えすぎてもダメだ。


「もっと楽にしてくれていい」


「あ、いえ……」


 そう言って目を逸らす。どことなく、ほんのりと顔が赤い気もする。


 ……って僕は馬鹿かー! 考えてみれば全裸じゃないか! レディの前で何て格好しているんだよ!

 でも今更、散らかっている服を拾う余裕は無い。さて、どう誤魔化したらこんな変態が目の前にいることに説明をつけられるんだろう。

 いや、違う。整合性なんて吹き飛ばすんだ! 要は、今だけ誤魔化せばいい。それだけだ。


 とにかく、今回はいきなり攻撃される事は無かった。王族の姿は有効だったに違いない。

 この機会を生かすことを考えなくちゃ。


 先ずはしっかりとした表情を作る。威厳のあるしゃべり方……これは止めておこう。貴族相手に嘘っぱちの言い回しが通じるわけがない。

 それにエリクセンさんは、あくまで普通に話していたじゃないか。


「楽にしてくれて構わない。それよりも、このような姿で会わねばならぬことを詫びよう」


「いえ、決してそのような事は……」


「その点に関して詳しく説明できない事もまた詫びねばならぬ。だが今は、それどころではない。アルフィナの件だ」


 メアーズ様は沈黙を保っている。敵意は感じないが、対応を決めかねているといった感じがする。

 そりゃそうだ。変なおっさんが消えたと思ったらイケメン王族のご登場。しかも全裸。

 だけどここは押し通す。


「私は何があっても彼女を守らねばならない。だが力及ばす、このような事態になってしまった事は想定外であった……そこでなのだが、少し協力をしてもらえないだろうか?」


「……協力、ですか?」


「そうだ。出来る範囲で構わない」


「出来る範囲といわれましても、今現在、当家サンライフォン男爵家は領地を失い、センドルベント侯爵の庇護下にあります。そんなわたくしに何が出来るというのでしょうか?」


 ――そんな事情は欠片も知りませんでした。


 いやどうするよ。

 理由は知らないけど、彼女の家は領地を失って、今はセンドルベント侯爵――要は敵の世話になっている訳か。

 その彼女がここにいる理由はアルフィナ様に関係ありそうだけど……今となっては立場が浮いている感じもするな。

 きっと彼女の立ち位置も複雑なのだろう。


「無理強いはしない。だがもし手を貸してくれるのであれば、テンタをアルフィナの元へと連れて行って欲しい」





「テンタを――?」


 それはメアーズにとっては完全に予想外だった。

 というよりも、死別したくないからと置いて行ったのだ。アルフィナは色々といわくつきだが、勘の鋭さも人以上だ。だから彼女が置いて行くといった時、テンタは遠からず死ぬと思っていたのだ。


「そうだ。テンタが全ての鍵になる。もし君が無理であれば、誰かテンタを連れて行ってくれる協力者を紹介して欲しい。それでもだめなら仕方が無い――この件は忘れ、平穏に過ごすがいい」


「――いえ、もしそれがご指示であるのなら従う事に問題はありません。ですが……もし事がなった時、我等サンライフォン男爵家にどのようなメリットがございますか?」


 ――うわ、何もない。


 僕の立場はただの触手。しかも中途半端なきれっぱし。

 財は? 無いよ。

 土地は? レーヴォ村にあったけど、もうとっくに誰かのものだよ。それも村として残っていればの話。

 地位は? 約束できるものなんて何も無いね。


「正直に言おう。今出せるものは何もない。だが約束しよう。働きには、いずれ必ず相応の成果で答えると」


 ――うん、無理だなー。


 僕の心は、既に絶望の空を舞いながら次の手を考えていた。

 町で侯爵領の方向を聞いて、もうそっちに行くだけだ。

 行ってどうする? それすら思いつかない場当たり的な考えだよ。無謀を通り越して馬鹿だと思う。

 でも他に手なんてないんだから仕方が無いよね。


「良いでしょう。それで手を打ちますわ」


 ――え!?


 全くの予想外。だけど彼女は、確かにこの件を承諾してくれたんだ。ちょっとだけ、妖しい笑顔を浮かべながらだったけど……。

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