怪しげな店
「最初に魔獣共が攻めて来たのは11年ほど前さ。あたしが生まれる少し前。丁度アルフィナ様が生まれた頃だね」
それは多分、僕が死んだ頃と近いかもしれない。そういや、僕が死んだのとアルフィナ様が生まれたのはどっちが先なんだろう? まあ、どっちでも良いんだけどね。
ただこれで、やっぱり二人の歳が近い事はハッキリしたな。そしてミリーちゃんの方が年下でもあると。
「最初の内は三日月の地を抑えていたリベルドガンス王国が戦っていたんだけど、あえなく敗戦。まあ、あたしらの国にも攻め込んでいた上に女神様まで動いていたからね。どうしようもなかったんだろうさー」
すみません、そこ初耳です。
三日月の地? まずそこで引っ掛かった。南はそのまま別の大陸があるんじゃないっけ?
まあ僕らには世界地図なんて無縁だからね。いつか世界の本当の形を知りたいものだよ。
それとリベルドガンス王国が僕らの国と戦っていた? これも初耳だよ。僕が死んだとき、戦争なんて当分無縁の話だと思っていたからね。
ちなみに僕が知る限り、西側にある隣の国の名前だよ。だから南の方にこの国の土地があるって事も初耳だ。
女神さまが動き出していたのは知っていた。もう100年は活動しているからね。これは有名な話なんだ。
まあ、戦争自体は珍しくは無いよ。
単純に国境軍同士が勝手に衝突する事なんて毎度の話。それに双方の神様が休止中だった時や、相手の神様が活動している間に火事場泥棒的に攻め込むって話はよくあるよ。
でも普通、逆は無いんだ。自分の国の神様が動き回っていたら、軍隊はどうしてもその対応に追われてしまう。とても他国に攻め込むなんて余裕は無いからね。
だからこの話は、ミリーちゃんの勘違いの可能性はある。攻め込んだのはこっちの国って事だね。
でも結局リベルドガンス王国は、南から来た魔獣、僕らの国、それに女神さまの相手をしたわけだ。
国同士の戦いがどうなっているかは知らないけど、きっとボロボロなんじゃないかな。
でもそれはこっちにも言えるのか。他国と戦争をして、南方からも攻められた……今どうなっているんだろう。
というか南を押さえている国と戦って、そこが負ければ次はこっちの番だよね。本当になんで戦争したの?
実際どちらが始めたにせよ馬鹿だなーって思うけど、政治の世界は複雑怪奇。僕らの知る所ではないしなー。
そうこうしている内に大きな商会についた。
木枠の鎧窓は閉まっていて、中の様子は分からない。ただ建物の上に『カプラン商会』と書かれた看板が付いている。
高さはおおよそ2階建てかな? 確認した限り、広さはかなりのものだ。というより、住んでいるお屋敷よりも大きいかもしれない。
だけど中には余り大勢の気配を感じない。精々数人だろうか? 繁盛していないのか、それともほんの少数の客で賄える程にバカ高い品を扱っているかだろうな。
僕個人であれば絶対に入らないような怪しい店。だけどミリーちゃんは平然と入って行く。どことなく常連のような空気を漂わせて。
「一応言っておくけど、イタズラしたりはしないようにね」
大丈夫、気を付けます。
その辺りが警戒されているのは、何となくわかっている。ここは無害で落ち着きのある触手をアピールしておかないとね。
店はかなり広く、壁一面どころかあちらこちらに棚があり、そこには乾燥した食物や鉱石、見た事もない異国の細工品などが雑多に置かれていた。
更に奥には生き物や内臓の入った瓶。いかにも危険そうな薬瓶なども置かれている。
店の中に人間は4人。若い女性二人と男性一人が棚の補充や内容のチェックを行っている。彼らは雇われ人って所かな?
そして奥の端に、細い髭面のおじいさんが木の細椅子に座ってこちらを値踏みしている。どう見ても、あれが店長だろう。
「やあパロック、店の方はどお?」
「これはミリー殿。ぼちぼち……と言いたいところではありますが、残念ながら船荷の殆どが滞っております。このままではいずれ在庫切れかと……」
「参ったものね。こちらも芳しくなくて……そろそろ結果を出さないとまずいのにね」
「先代から工房を引き継いでまだ4年。子供にしてはよくやっておられると思いますがね。わたしゃ最初、また大層なママゴトを始めたものだと思いましたがね」
「よくやっているだけじゃ、ダメなのよ」
ミリーちゃんのその言葉に、言いようのない口惜しさを感じた。
彼女の工房はアルフィナ様たちの溜まり場だ。まあ面子が面子だけに、ただ集まってお話をしているだけってわけじゃないのだろう。
アルフィナ様は勉強をして、この子は何かの研究をしている。もう一人は……何かを食べている姿しか想像できないけど、それだけでもないだろうな。
工房と言うからには、何か物作りの場所なのだろうとは思う。
だけど外から確認する分には、中で働いているのはミリーちゃん他いつものメンバーだけ。でもこれはちょっと意外と言える。
一人で出来る事なんて限りがあるからね。大抵どこも、複数人の分業式だよ。
しかもあんな厳重な建物にある工房だ。たとえ本来の目的がなんであれ、子供一人に管理させるって事がちょっとおかしいね。
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