これからの為に 後編
アルフィナ様が認めてくれた。これで自由に行動するお墨付きは出たと思って良いね。
ここからは少しでも時間を取って、色々とやらなければダメだ。勉強に鍛錬、そして体の使い方……やるべき事は山ほどある。
だけど僕の正体を打ち明けるのは……やめた。
何て言って説明したらいいか、決心がつかなかったから……ううん、それは言い訳だね。
最初はバステルの姿で説明しようとしたけど、それはダメだろう。
僕にはアルフィナ様達を納得させられるだけの知識は無いし、必ずエリクセンさんの事を説明しなきゃいけない。
当然アルフィナ様の前であの姿になって……でももう、彼はこの世にいなくて……心がチクリチクリと痛む。
やっぱりこれは保留した方が良い。
それに、大切な事もまだ試していないんだ……。
そんな訳で、これは保留だ。今はまず、皆がワイワイ話している内に2階へと昇る。
表から見たら屋根裏部屋程度。階層としては数えられないような隙間。当然、灯りなんてない。
換気用の鎧窓があるだけで、それも今は閉じている。埃臭い、完璧な暗闇。だけど僕には関係ない。
ここは倉庫としても使われていたらしく、様々な小物が置かれていた。
その中でも特に目を引いたもの――それは、子供向けの椅子などの家具、ぬいぐるみ、おもちゃ……そして児童向けの本だ。
言うまでもない、僕の目的はこの本。文字の基礎から始まって身近な動植物の図鑑、計算の仕方を書いた本まである。
ただ分かるのは形だけ。難しい本だったらどうしようかと思ったけど、周りの小物からそれは無いと確信していた。
所々に可愛らしい文字でメモや計算が書かれているところを見ると、昔から聡明だったんだろうな。
多分だけど、あの焼けてしまったお屋敷に来るまで、アルフィナ様はここにいたんだと思う。
幸い、アルフィナ様は朝食が済んだら工房へと移動する。僕はお留守番で、ここは無人だ。
今のうちに、ここで学ばないといけない。そしてそのためにも、色々と試さないといけないわけさ。
一番の問題になるのが、姿を変えた時に全裸になる事だ。
僕ら人間は裸じゃ何も出来ない。焼けてしまったお屋敷の庭はよく手入れされていたから何とかなったけど、それでも裸足じゃきつかった。僅かの戦闘でも足の裏は傷だらけ。小石とか踏んだ時は相当に痛かったよ。あれじゃ走ったりするのは無理だ。
それに戦闘を考えると、もっと問題だよ。
武器はどうするの? 鎧は? まさか素手じゃあ戦えない。
誰かの救援を求める時。または誰かと話すとき、全裸だったら変態だ……じゃない、大変だ。いや、変わらないのかな?
こういった辺りを先ず何とかしないと、人間の姿に変身できるメリットがなくなってしまう。
――何かを持ったまま元に戻ったら、いったいどうなるんだろう?
バステルに変身し、本を持つ。
――変身解除。
僕の――いや、バステルの体がボロボロと崩れ消えていく。そして手が消えた時、本もまたポトリと落ちた。
取り残された僕の体もまた、支えを失いちょっと遅れてポトリと落ちた。
――ダメだぁー!
自力で運べないのはどうしようもない。さすがに30センチしかないこの体で服や武器、鎧その他を運ぶなんて無理。というか、出来たとしても注目を集めすぎ。
大体、アルフィナ様にどうやって説明するんだ? 結局はそこで止まってしまう。
――あーあ。
結局、知恵と力の無さを痛感しながら本を読む。ただひたすらに。
今出来る事は、勉強しか無いんだから。
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