もやもや
「テンタ!」
――ビクーン!
アルフィナ様の叱責を受け、体が宙を跳ねる。
何事!? え? あれ? 今どんな状態なの?
慌てて確認……うん、触手。今の僕はいつもの触手。
どうやら、決意も空しく寝てしまったようだ。実に情けない。
そして体の下には開いたままの本。あっちゃーだよ。
「全くもう、だからミリーが工房に動物を入れないのよね」
そう言いながら、僕をどかして本を確認する。
そういえば聞いたことがある。一部の小動物が、書物や実験器具をボロボロにしてしまうという話を。特に鳥なんかが酷いらしい。ちょっと油断すると、本のページをガジガジと
誰に聞いたんだろう? 多分触手の誰かからだよね。
まあそれでなんだろうけど……、
「うーん、何処も破れたりはしてないわね」
そりゃそうだよ。大事な本を汚したりはしない。まあ、敷布団にはしちゃったけどね。
「なら何でなのかしら……?」
じーっとこっちを見ているアルフィナ様。
頭はぐるぐると歪んでいても、体を見ればどこを向いているかくらいわかるよ。
知りたいことは間違いない。僕の下に置かれた本の事だ。
でもまあ、まさか僕が本を読んでいたとは思わなかったろう。少し首を傾げたけど、「まあいいわ」といって本をしまうと、僕と一緒にベッドに入る。
……温かい……柔らかい。
「もう寝ましょう。明日からはミリーの仕事を手伝うわ。ちょっと会う時間が減っちゃうけど、テンタは大丈夫よね。いい、ちゃんと大人しくしているのよ。私が呼んだら、すぐ来るようにね」
アルフィナ様は、以前よりも僕に話しかけてくるようになった。まだ不安なのだろうと思う。
正直、僕はまだ大切な事を決めかねていた。僕の事を話すかどうかを。
人間に変身すれば、当然会話だってできる。事情を説明する事だって問題無いさ。
でもその時、僕はこうしてアルフィナ様と一緒に寝ることは出来るのだろうか?
考えるまでもない、無理だ。いつでも男になりますなんて事になったら、絶対に許されない。第一、アルフィナ様が嫌がるだろう。
となると、今のこの幸せな状況を失う事になる。女の子に握られたり、包まれながら寝る生活を続けてもう何年になるのだろう。僕はもう、この生活にすっかり馴染んでしまっている。というか、本能がこの生活を要求しているんだ。捨てるなんてとんでもない。
だけど、それは僕の我が儘だ。アルフィナ様の安全と生活を考えたら、この事は明かすべきだ。
明日になったら……そう、明日アルフィナ様が起きたら、この事を打ち明けよう。
いつの間にか、アルフィナ様は静かな寝息を立てていた。
無理もない、相当に疲れている。精神的にも、また体の方も。
気になる事は沢山あるし、僕も一つ、大切な事を考えなくちゃいけない。
でもそれは明日。今日はもうおやすみだね。
「ん――」
あっと、起こしちゃったかな?
あまり動いてはいないつもりだけど、どうしても気持ちよくてモソモソしちゃうんだよね。
注意しな――
「エリクセン様……」
――え?
アルフィナ様はまだ寝ている。これは寝言だ。
あ、うん、そうだよね。エリクセンさん……うん、僕から見ても格好良かったよ。凄い人だった。気になって当然だよね……。
ちくりと心に何かが刺さる。
それが何なのか、僕にはさっぱり分からなかった。
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