同年代の友達

 コンコンとノックの音が響く。


「どうぞ」


「失礼します」


 扉が開き、最初に入ってきたのはクロスを被せたカートだった。

 その中から漂ってくるのは、肉や野菜を焼いたような香ばしい香り。

 もし僕に食欲が残っていたら、きっと涎が出て大変だったと思うよ。


「良かったわ。さすがにもう空腹で倒れそうだったの」


「そう思って、急いで用意して来たのよ。感謝なさい」


 カートを押してきたのは、濃い朱色の長いクセ毛が特徴の女の子だった。

 背は145センチくらい。アルフィナ様よりちょっと大きい。長い髪はきちんと手入れされているが、それでも癖のせいでかなりのボリューム感を醸しだしている。瞳は赤く、大きいがちょっと猫目。


 お嬢様と同じく胸は無いが、痩せているという感じでもないな。

 服は肩から上とおへそを出した特徴的なドレス。下は太ももまでのフレアスカートだ。上下とも純白で、白い肌と良く調和している。

 まだ寒いのに、なかなか挑戦的な服装だなー。

 ちなみに足元は、素足に銀装飾のハイヒール。とてもカートを押しながらずかずか入って来る人のようには見えない。


「ふふ、ありがとうございます。男爵令嬢様の手料理を頂けるなんて光栄で御座いますわ」

「何を言っているの。アンタもそうでしょう」


 お互いにクスクスと笑いあう二人。え、というかアルフィナ様が男爵令嬢?

 驚きはしたけど、仰天するというほどでもなかった。むしろ、もう少し高い位かもしれないと考えていたんだ。

 そうかー……男爵様のご令嬢かー。

 そう考えながらも、心の何処かが否定する。分かっているよ。ただそれだけじゃない事くらい。


「私も手伝ったのよ。感謝なさい」


「ミリーにも感謝しているわ。部屋の管理、いつもしてくれてありがとう」


「それが契約だからねー」


 ミリーと呼ばれた、後ろにいた少女。背は低い。140センチを切っている。135? その位か。

 若草の様な緑のショートボブに、くりくりと大きな緑色の瞳。アルフィナ様に対して、歯を見せて笑う。こちらも同じような身分なのだろうか? でも契約? ちょっと違う気もする。


 というか、銀縁の丸眼鏡に紫色をしたシルクのスカーフ。上は紺の木綿の半そでシャツに革のベスト。下は鼠径部ラインのショートなパンツルック。色はグレー。

 足元は皮のブーツで、その上に薄黄色の長靴下が見える。

 朱色の髪の女の子に比べるとラフな感じだけど、注目したのはメガネの淵に刻まれた魔法文字ルーン。それと同じく魔法文字ルーンが抜き染めされた紫のスカーフだった。

 メガネは明らかな魔道具。それにタイプまでは知らないけど、スカーフは確か魔術師の正装であり鑑札だ。


 というか、部屋の手入れとかしていたの、おばあさんじゃないじゃん。

 誰かに盛大に笑われた気がした……。


「夕食には少し早いから、先ずはこれだけね」


 そう言ってクロスとその下にあった銀の蓋を取ると、その中には鳥一羽を丸々焼いたステーキに、周りを囲む一口パン。それと野菜を炒めたものが間にぎっしりと配置されていた。

 上からたっぶりとかけられたソースの香りが素晴らしい。

 でも僕が感じた良い香りは、もちろんこっちじゃない。女の子二人から香ってきた匂いだった。

 見た目もそうだけど、香りからも同年代の感じがする。アルフィナ様と同じくらいとすると、11歳前後かな。実際にどうかは分からないけど、かなり近いんだと思うよ。


「今日からはここで生活するのでしょう? 先ずは簡単に用意したから、夜は夜でご一緒しましょう」


 朝から歩いて、今は夕方にはまだ早い時間。というか、それ間食なの?

 正直言ってしまえば、僕はあんな豪勢なものを食べた事は無い。庶民なら、一家の夕飯といってもいい量だ。

 それにアルフィナ様もお屋敷では相当に簡素な食事をしていた。だから身分に関してちょっと怪しかったのだけれども、もしかして相当に無理をしていたのだろうか……。

 ……と思ったら少し引いている。ですよねー。


「こんなに沢山、一人では無理よ。3人で分けましょう」


「相変わらず小食ねぇ……」


「まあ普通はそうよね。それじゃあ切り分けましょう」


 眼鏡の少女がテキパキと切り分け、アルフィナ様が微笑みながら歓談する。

 今までの緊張が嘘のような、ほんわかとした空気。アルフィナ様に必要だったもの。それはきっと、同年代の友達だったのだろうと僕は思った。

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