新居と来客

 反響定位エコーロケーションで確認すると、ここはもう大きな塀にぽっかりと空いた穴――というか入口だね。開いている門だ。


「これはシルベ様。それにお嬢様も……ですか? 何か問題でもあったのでしょうか?」


 話しかけて来たのは胸甲ブラストプレート鉄兜ヘルメットの男。きっと門番だろう。

 だけど、その言葉に少し違和感があった。

 アルフィナ様がいることに対する不信感。恐怖……そういった感情を感じたからだ。


 ――なんだろうかね、感じ悪い。


 シルベさんに様って付けていたけど、これは敬愛って感じじゃないな。単に丁寧に呼んだだけって感じだった。別に偉い人って訳じゃなさそうだ。





 門をくぐった先は、大きな豪邸であった。

 というか、周りを囲っていたのは単なる塀ではなく兵が入れる建築物。四方には見張り台も置かれている。


 内側には4つの建物があり、一つは母屋。そしてその奥には煙突のある小さな建物。全容が見えないので炭焼き小屋に見えなくも無いけど、実際にはもっと大きそうだ。

 そしてもう一つは離れといった感じの建物だね。清楚な白いモルタルで補強され小柄な家。ある程度は石組だけど、殆どは木製の様に見える。

 最後の一つは両方の建物と入口の3か所を見張るように作られた四角い石の塔。

 兵士を配した塔と兵舎で囲われた建物……ここはまるで、昔教わった砦を思わせる形状だよ。


「それじゃあ、後の事は任せるわ」


「お任せくださいませ、お嬢様」


 その塔の所で、シルベさんは母屋の方へ。そしてアルフィナお嬢様は離れの方へと歩いて行く。

 ふと上を確認すると、塔の上から兵士達がこちらを見ていた。人数は4人。上にいる全員だ。

 シルベさんの方には注目していない。それは決して、アルフィナ様が美しいからとかじゃないな。というか、外套フードをすっぽり被っているしね。

 詳しくは分からないけど、やっぱり髪の事かな。あの輝く白金プラチナの髪。間違いなく王族だと思う。

 だけど、お嬢様を見る彼らに羨望や欲望は無い。あるのはただ、恐怖のみ。

 僕はまだ何も知らない。だけどきっと、何か意味があるんだと思った。





「さあ、ここが当面の居場所よ」


 そう言いながら、こじんまりとした離れの引き戸を開ける。


 ――へー。思ったよりもずっと綺麗だ。


 中は外から見たとおりの木造2階建て。それほど大きくはないけれど、僕の村で考えるなら村長の家よりも大きい。

 床には毛皮が敷かれ、壁には何枚も絵が掛けられている。それに何より、玄関には花瓶があり花が活けてあった。シルベさんじゃない。誰かが管理しているのは間違いなさそうだ。


「部屋に行くわよ」


 そう言って1階奥の扉を開ける。今日という日が始まってから、アルフィナ様はよく話しかけてくる。

 それはおそらく不安から。実は僕もそうだ。もし僕が話せるのなら、今頃どれだけ沢山の話をしただろう……。


 中は結構広く、そしてアルフィナ様の部屋らしく大きな本棚が置かれていた。

 他には樫の木の机と椅子、それに天幕付きのベッド。

 どう見ても今までのお屋敷より豪勢だ。それに手入れも行き届いている。

 僕の記憶だと、アルフィナ様が外泊をした事は一度もない。ここは多分、町に出かけた時による休憩所みたいなものだろう。

 それでもきっと、毎日誰かが手入れをしている。


 ――どんな人なのかな?


 相当に虚しい作業だ。多分ベテランの、それも事務的な人かな?

 細かくきめ細かな作業だし、アルフィナ様の寝泊まりする場を男性が手入れするとは考えにくい。そうすると酸いも甘いも噛み締めた老齢の人だと予想できる。

 そう考えていると、廊下でカランカランとベルが鳴った。

 そういや、入り口に紐が付いていたな。あれと連動しているのか。


 返事を待たずに、かちゃりと扉を開ける音が聞こえてくる。

 同時に聞こえるカートを押す音。それに二人分の足音。両方女性……でもシルベさんじゃないな。

 それに、なんだかいい香りがする……いったい、誰なんだろう?

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