反乱

 ――ありゃ、男だな。


 だよね、入って来た時から僕らには分かっていたよ。男三人だって。

 音とか匂いでも分かるけど、それ以上に何か……まるで専門の器官でもあるように強く性別に反応する。それだけに今回はがっかりだ。

 だけど、皆の飢餓はそんな事では止まらなかったんだ。


 ――いやいいよ、男でも。

 ――むしろ何の問題があるんだよ!

 ――男の娘って知っているか? いや知ってるだろ。常識だぞ。

 ――噂に聞いたことがある。男の娘ってのは、男でも女でもない穴があるらしいぞ。

 ――マジかよ!? すげえな人体の神秘! お前知っていたか?


 知らないよ!

 皆はどうか分からないけど、僕は女の子に触りたいんだ。男でも男の娘でもないんだよ!

 せめて一人くらいは女の子を連れてきてよ!


「ブフフフフ。貴様らの力量……試してやろう」


 その言葉と同時に響く轟音。背中から生えている僕らでさえ気が付かなかった一瞬の突進。

 状況を理解していた時、既に男の娘? は壁にめり込んで潰れていた。

 右手を突き出した半身の姿勢。その為、右にいた仲間たちは飛び散った血で真っ赤に染まる。

 だけど、そんな事で僕らは怯みなどしなかった。


 ――こいつ……こいつ男の娘を殺しやがった!

 ――むがー! 許せねぇ!

 ――状況理解してんのか豚野郎!


 むしろ、唯一の希望が断たれた事の方が大きかったと言える……かもしれない。

 というか、僕らの希望って何だっけ?


 ――もう俺、あのイケメン騎士でいいや。

 ――奇遇だな、俺もそう考えていたんだ。

 ――穴は穴だよな。そこに何の貴賤もありゃしねえ。


 いや待ってみんなしっかりして。

 でも気持ちは分かる。この姿になって初めて人間の体温を感じたせいだろうか、無性に人肌が恋しい。

 いっそ男でも良いかもしれない。巻きつくんじゃなくて、ぎゅっと握って欲しい……そんな気すらする。

 ……ってダメダメ。僕はいったい何を考えているんだ!


 ――みんな少し落ち着こう。プランクさんも何とか言ってよ。


 ――そ、そうだな……と、とりあえず、あの男の尻を俺の前まで運んでくれ。


 ――何いきなり本能に負けてるの! ダメだよ!


 それは僕自身にも言い聞かせた言葉。そうだ、負けちゃいけない。

 で、でも……ちょっとだけなら……。

 だけど運命は、そんな僕らのささやかな願いすら聞き入れてはくれなかった。


 騎士の首から上が、まるで水滴のように破裂する。

 剣で防いではいた。だけど豚野郎オークの鈍器は、そんなもの無かったかのように軽々と砕き、イケメンを葬り去ったんだ。



 首から上を吹き飛ばされた騎士の体が、2回くらい痙攣して膝をつく。

 血は噴水のように天井を濡らし、体が倒れてからは床一面に広がった。


「ぬるいな。そしてつまらぬ。弱い弱い弱ぁい! この魔王ラズーヌ様を楽しませるものはいないのか!」


 ――わああああああああああ!

 ――なにしやがるー!

 ――俺の穴が! 俺達の穴がぁぁぁ!


 偉そうに構える豚野郎オークなどお構いなしに、僕らの怒りが爆発した。


 ――もうこいつで良いよな。

 ――ああ、尻に貴賤はねえ。それが人であろうがオークであろうが知ったこっちゃねぇな。

 ――やっちまえー!


 ――いや待ってよみんな! それで良いの?


 だけど火が付いたみんなに静止なんて聞かない。一斉に尻めがけて殺到する。

 だけど――、


 ――な、無い!? こいつ穴がねぇぞ!?

 ――隠しているんじゃないか? よく探せ!


 体毛を掻き分け触手たちが一斉にまさぐるが、そこには何もない。


「ブハハハ、馬鹿め! 我にそのような物は無いわ! 残念だったな。ブハハハハハ!」


 ――こいつ、僕らの声を!?


「ブハーハッハッハ。全て聞こえておるわ! 愚かな亡者たちよ。残念だったな! 食事? 排泄? この俺がそんな事をしたことがあるか? 下等な生物とは違うのだよ、馬鹿め! ブハハハハハハ!」


 何が起きているか分からないといった筋肉男など、もう僕らにとってどうでもよい存在であった。

 ブチッっという音が聞こえた気がする。それが僕のものなのか、みんなのものかはは分からない。

 でもそんな事はもう関係ない。湧き上がった怒りは限界を超えてしまったのだ!

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