第6話 新しい人生

 神は死んでも欠片を残す。でも小さな欠片であっても、見てはいけない。触れてはいけない。関わってはいけない。僕たちはそう教わって来た。

 だけど、そこに秘められた力は魅力的だ。

 滅んだ神の欠片。まだ力が残っている内はとんでもない災害を引き起こしたりもするけど、多くは微弱な魔力を秘めた素材とした高額で取引されるという。


 見つけたら一攫千金かもしれないけど、素人が扱って無事で済むようなものでもないだろうしね。

 やっぱり触らぬ神に祟りなし。無関係でいるのが一番さ。

 ……なんて考えてちょっと虚しくなる。もう何もかもが今更って感じだ。

 改めて自分の体を確認する。豚野郎オークから生えた僕。触手の一本……ふう。


 それにしても、神の欠片なんて滅多に出会うものじゃない。それを全員が共通して手に入れていた? ちょっと奇妙な話だと思う。

 そんな事有り得るんだろうか?

 でも有り得たからこうなってているんだよね。



 ちょっと話が脱線したけど、関わりたくなくても神様は現実に存在する。

 僕らの国の主神である絡まる螺旋と太陽の神”アステオ”は休眠に入っているけど、隣の国では滾る血脈と豊穣の女神”ヤーン”が元気に活動中だ。

 お気の毒だとは思うけど、人がどうこうできるものじゃないしね。


 神の意志は誰にも分からない。というよりも、災害と言っても良い。

 だけど極稀に……本当に滅多にないけれど、神託を授けてくれたりもする。それは英知であったり預言であったりと様々だ。

 そのおかげで人は発展し、多くの危機的な破滅を回避してきた。

 だけどやっぱり、迷惑な存在であることに間違いない。



 そして南の海を渡った先にある大きな国、そこが”歪む英知と虚空の神”ヴァッサノの行動圏内だった。

 だけど滅んだ。神を倒す者が現れたんだ。半神デミゴッド……神に匹敵する力を得た人間。

 でもその時、その地を収めていた国もまた滅んだと伝えられている。

 詳しい事は分からない。でも今、その広大な土地は魔物の住処すみかになっているらしい。

 本当に、いてもいなくても迷惑だね。


 かつて世界にはもっと多くの神がいたと伝えられているけど、そんな昔の事は知らない。調べようもない。ただ分かるのは、神に逆らってはいけないっていう事だけだ。

 もしアステオに何かがあったら、ここも魔物の世界になってしまうかもしれない。

 やっぱり眠っていてもらうのが一番だよ。


 ――でも……ええと……。


 ――レルゲンじゃよ。レルゲン・ワーズ・オルトミオン。かつては学者をやっておった。神に関しても、その時に研究しておってな。その時に手にしたのじゃ。


 この人も苗字もちかー。いや、んー……ワーズ・オルトミオン? 中央オルトミオン学院?


 ――もしかして中央オルトミオン学院の方ですか?


 ――その通りじゃな。よく知っているものじゃて。


 そりゃ知っているよ。この国で流通している学術書はほぼ全部ここで研究され、ここが出版しているんだ。

 僕が文字を学んだ本も、中央オルトミオン学院が発刊したものだよ。


 ――おいおい、俺達も紹介しろよ。

 ――そうだよ。もう神なんてどうだっていいじゃないか。

 ――おきろー。

 ――いやもう起きてるだろ。それより大事なのはこれからだぜ。

 ――そうそう、これからこれから。


 一斉に声の洪水が僕を襲う。

 でも正確には誰もしゃべってはいない。豚野郎オークの本体を仲介して意識が繋がっている――そんな感じがする。

 というか、何本あるんだろう。それにさっきうやむやになってしまったけど、色や形に種類がある。


 僕には何もない。目も無ければ口も無い。耳もないし、当然のように手足の類も無い。

 先端は丸くなっていて、他はのっぺりとした円筒形。

 何だろうか、本当に触手。うねうねうにょうにょ動くしか出来ない気がする。


 でもプランクさんは根元が少し膨らんでいて、僅かには透明になったそこにはゼリー状の粒々が見える。


 レルゲンさんは先端が広がっていて、ブラシの様な細い触手がびっしりと生えている。


 他にも何種類かいるけど、なんだか僕が一番単純に見える。

 聞きたい事は山ほどあるけど、どうしたら元に戻れるのか? どうしたら逃げられるのか? それは聞かなくていい気がしていた。

 だって、それに答えがあるのなら、みんなもうこんな姿なんてしていないのだろうから。

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