第8話 僕たちの種類 後編

 豚野郎こいつの背中には、僕の他にもまだまだ沢山の種類の仲間たちがいる。

 ちなみに先生もまた、僕とはずいぶん違う形をしているんだ。

 尖端が少し広がっていて、そこにびっしりとブラシのような毛が付いている。長い舌を思わせる感じの形だ。

 先生と同じタイプは6本。結構レアだ。名前は繊毛せんもう触手というらしい。

 拘束した女性の全身を舐めまわすのが仕事だ。

 何の為に? いや、僕は詳しい事は知らないよ。真面目な話、意味が分からない。

 でも、相手を傷つけずに抵抗力を奪えるらしい。そう考えると重要だ。


 ただ僕らのような拘束力はない。だから先生たちが真価を発揮するためには、僕たち拘束触手が頑張らないといけない。

 ちなみに繊毛触手は僕らよりもバリエーションがある。漁師であったというアトックとギアサの兄弟は根元から平たい舌のような形をしているし、無口なトリオロンはまるで蛇の舌のように先端がちょろっと出ているだけ。

 それぞれ違いがあって面白い。



 ――暇だー。


 宿主の尻にきゅぽきゅぽ吸い付いているのは、確かノートルと名乗っていた気がする。

 だけど彼とはあんまり話していない。なんというか、ちょっと怖い感じがして話しかけずらいのだ。


 先端が吸盤状になっている変わった形。2本しかないレア触手。

 何でも、女性の胸に張り付いて吸うらしい。なんだか赤ちゃんみたいな触手だ。

 でもそんな事を言ったら、絶対に怒るだろう。



 そして――


 ――よう、少年。ちゃんと鍛えているか?


 僕を少年と呼ぶ彼。先端は瘤のようになっていて、そこから長い爪をもつ指のような突起が生えている。よく見ると、それは針だった。

 彼の名前はエリクセン。種類は注入触手というらしい。

 先端の針から媚薬というものを注入して、相手の苦痛を和らげるって言っていた。

 でもあんな太いものを刺されたら、それだけでも相当に痛そうに感じる。


 全部で3本。それぞれに担当があると聞いた。右胸と左胸とは教えてくれたけど、後一か所は分からない。大人になったら教えてくれるそうだけど、それってもう一生ダメなんじゃないだろうか?

 ちなみに分量を間違えると物凄く危険なのだと聞いた。だけど3人とも、薬学には詳しいそうだ。すごいなー。


 どんな触手になるのかは、やっぱり以前の能力とか知識とかに影響があるんだろうか?

 そんな事を一瞬考えたけど、止めた。だってそれは、僕と同じ拘束触手の15人を侮辱する事になってしまうのだから。



 お次は一番多い触手、繁殖触手だ。僕も村では家畜を飼っていた。ガチョウだけどね。だから何となく意味は分かるよ。

 全部で22本。最も多いけど、20本は同じ形。先端が口のようになっていて、なんだか生前に僕の股間に付いていたものに近い気がする。

 でも違いがあって、表皮は裏山の蔦から採れる野菜のように凸凹していた。

 触感も固めで、僕ら拘束触手の様な弾力や柔軟性はない。

 それと――


 ――セルロットさんとアヴィニョンさんは違うんですね?


 ――俺達はもっと奥まで行くからな。


 この二人は尖端の口が大きくて、更にそこから新たに細いのが伸びるそうだ。

 何の為にそうなっているかは分からないけど、


 ――俺達はそうさな、いわば最終兵器だ。使われないのが一番なんだけどね。


 最終兵器……なんか強そうだ。カッコいい!

 そんな触手になるなんて、以前はどんな人生を送っていたんだろう。



 最後はプランクさん。元は商人だったそうだけど、あまり詳しくは聞けなかった。正直、あんまりいい思い出では無いんだろう。

 プランクさんは他とは違って、唯一1本だけある触手だ。

 尖端や表皮は繁殖触手と同じに見える。でも太くて、途中には瘤もある。それに根元の方には更に大きな瘤があって、沢山の小さなツブツブが大量に詰まっている。不思議な感じだ。

 なんでも物凄く大切な触手だそうだけど、詳しい事は聞けなかった。

 ただ一つだけ――


 ――もし俺が本能に負けたら、絶対に殺してくれ。約束だ。


 そう言っていた。僕達を殺す……多分、ちぎれてこの体から離れれば死ねるんだろう。

 僕たちはもう、ここで死んだ方が良いのかもしれない。

 だけど誰も自決できないまま、ただ時だけが過ぎて行った。

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