第22小節目:Sexy Sadie
2人分の飲み物を買って、客席のある二階へと上がる。なんとなく、今日もおれがおごる流れになっている。なんでだよ。
「コヌマくんは、今日もコーヒー?」
「うん、まあ」
「ふぅーん……舌だけはオトナなんだねぇ」
「ん、舌だけは?」
「べっつにぃー」
前回来た時よりもなんか嫌なニュアンスが含まれているような気が……。なんか
前回と同じ、窓際の二人席につく。
「一昨日も来たばっかなのにごめんねぇ」
「いや、別にいいけど。どうしたの?」
そうおれが訊くと、英里奈さんはむむっとなんだか決心したように小さく手を挙げる。
「そっちょくに聞きます! コヌマくん、さこっしゅのこと、好き?」
「……は?」
いきなり何を訊いてくるんだ……?
「大事なことなんだよぉ」
じっとおれの目を見て、英里奈さんが頬を膨らませる。
「す、好きって言うのは、あの、恋愛的なことで……?」
「当たり前じゃんかぁー……」
やめて、その、「ばかなの?」みたいな顔しないで……。
「いや、えっと、恋愛も何も、おれ、一昨日久しぶりに話したばかりで、友達なのかすらよく分からないんだけど……」
「そぉいうことじゃないんだけどなぁ……」
英里奈さんが、んぁー、みたいなため息交じりの声を吐きながら机に突っぷす。
「……同盟、組めるかもって思ったんだよぉ」
ぽしょり、と声が聞こえる。
「同盟?」
「でもそれって、どうなんだろぉっていう風にも思うんだぁ」
「は?」
「もぉ、えりなもどうしたらいいか全然分かんないんだよぉ」
もぉ、たくとも英里奈さんが何を言ってるか全然分かんないよぉ……。
「……コヌマくんって、口かたい?」
英里奈さんが突っ伏したまま顔をあげて、おれを見上げて言う。
「口かたいって言うか……」
「って言うか?」
「言う相手がいない」
それだけは自信を持って言える。
「……それもそうかぁ」
あれあれ、結構普通に認められてしまいましたね。
「コヌマくんはさぁ、好きな人の幸せと自分の幸せが違う時、どうする?」
は、好きな人の幸せと、自分の幸せ?
何、秘密を打ち明けられるんじゃなかったの?
「あ、いや、えっと……」
「好きな人が幸せになる時のこと考えたら、考えるだけでさぁ、もう、どうしたらいいか分からないくらい胸が痛くなるんだよぉ」
ほっぺを腕につけて、横向きに突っ伏す。
「だけど、好きな人の幸せを願えないなんて、それは『恋』かも知れないけど『愛』じゃないじゃんかぁ? 絶対」
絶対。
そんな強い言葉が英里奈さんの口から出てくるのが、少し意外だった。
「だからね、えりなは、健次のこと応援するって決めたんだよぉ」
その言葉で、さすがにおれでも気づく。
「もしかして、英里奈さんは、
ふう、と息を吐いて、机を軽く叩きながら、顔を上げる。
「うん、えりなは、健次のことが好きなんだ」
そう言った英里奈さんの表情があまりにも真剣で、おれは、つい言葉を失う。
「やっと、二人がうまくいきそうだったのに、おさななじみなんて、今さら出てきて、ズルっこいよぉ、コヌマくん」
「えっと……でも……」
おれはまだ分からない。
「ねぇ、コヌマくん!」
戸惑っているおれを気にも
「は、はい……」
対するおれはあいづちの1つもまともにうてない。
「えりなのすーっごいわがまま、一個だけ聞いてくれない?」
「……なに?」
すると、英里奈さんは、本当にとんでもないわがままを、おれに告げたのだった。
「えりなと付き合って、って言ったら、困る?」
「……は?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます