第5話

「河村さーん、どこー?」


建物内はとても広い。

まるで、いつしか夢に観た豪邸のようだ。

彼女はーーー丗蠃セラさんは、誰かを探しているみたいだ。


ボーッとしながら、探索していると、誰かとすれ違った時にぶつかってしまった。


「あっ、すみませ…」


「……」


相手方は、魚が死んだような目で、僕を見ている。

僕が声を掛けても、知らん顔。


「あ、そこに居たんですか。河村さん」


背後から声が聞こえて、振り向くと、セラさんがいた。


成程、この男性が“河村”か。


研究者…?

それにしても、若い。

もっと中年層の人間が働いているのかと想像していたけど、世の中はそんなに狭くないみたいだ。


「彼が、例のお届けです。どうぞ、思いっきりやっちゃって大丈夫ですよ!」


僕は、彼女の笑顔から、恐怖を感じた。


そんな誘いから、河村氏は、表情筋を微動だに動かさなかった。


「用が済んだらとっとと帰れ…」


消え入りそうな声を発する。

よく耳を傾けていないと、聞き落としてしまいそうだ。


「あ、妖天ハルスでも、半妖天ハーフハルスになっちゃったので…」


妖天ハルスの血が混ざっていれば、構わない」


「じゃあ、あとはお願いします」


セラさんは、既に真夜中の闇に消えていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る