第2話 無駄足

 あれ?

 なんで、あの女性はその場で救急車を呼ばなかった?

 まさか…。


「あら? 起きたの」


 今では判る。

 微かな、血の臭いが。


 妖天ハルスだ。


 翼を広げ、材質が変化する。

 手足を拘束されて、動けない。

 つまり、僕は喰べられる…。


 血塗れのフローリングに、芋虫のような存在である僕は、うつ伏せに寝かされている。

 僕は、その女性悪魔を見上げる。

 女性悪魔は、僕に近づき、しゃがんで、拘束を解いた。


「何を怯えてるの? あなたは、私達の仲間同胞なのに」

「どう…ほう…?」

「ほら」


彼女悪魔が鏡を持ってきて、僕に差し出す。

鏡の向こうの僕の右眼は、澄んだ黒ではなく、濁った白に変色していた。


「なんで…?」


「君は、眠った間に、妖天ハルスになったの。一種の人体実験かしら? 取り敢えず、成功ってことで報告しなきゃね…」


消音銃と思われる銃声が聴こえ、奥に行こうとしてその場を立ち去ろうとした彼女の背中を撃ち抜いた。


「あ…」


何故か、彼女悪魔は一声上げて、倒れた。


「なんで…、…だぁれ?」


向かいの窓枠には、僕との腐れ縁の東堂とうどう緋透甲ひすかが、長刀を担いで腰掛けていた。

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