同窓会

 同窓会の誘いがあり、参加してみたのだが、とんと誰が誰だか思い出せない。

 みながスーツやドレスに身を包み、太っていたり、頭が薄かったり、赤子を抱えていたりする。そのような変化のせいなのか、私は誰一人記憶の中の同級生と照らし合わせることができず、はて、もしかして会場を間違えてしまったのだろうか、と疑う始末。

「よう、元気にしてたか」

「なんだ、お前は変わらないな」

 みな、そんな風に私を見知った様子で話しかけてくれるので、私が在籍していたクラスなのは間違いないのだろうが、いくら親しげに声をかけられても私の方は相手のことを思い出せない。思い出せないと言うのも失礼なので、適当に話を合わせてはぐらかした。

「久しぶり。お前も変わらないな」

「おお、何年振りだろう。お互い年をとるものだな」

 会話しながら脳のメモリをフル回転させるのだが、やはり誰のことも思い出せない。あんなことがあった、こんなことをして遊んだ、と昔話をされても、それも覚えがない。

 どんどん居心地が悪くなり、酔ったふりをしてトイレに逃げ込んだ。

 顔を洗って鏡を見つめる。

 そこには間違いなく私が映っている。毎朝見ている顔だ。何十年付き合ってきた顔だ。

 しかし、同級生のことは一人も思い出せない。なんだろう、どこに迷い込んでしまったのだろう。気分が悪くなったと言って帰ってしまおうか。

 そう考えて、俯いて洗面器を見つめていると、後ろから声をかけられた。

「おい、大丈夫か。みんな心配しているぞ」

 振り返ると、私は思わず「ひっ」と声を上げてしまった。

 声をかけてきた同級生は、豚と、猿と、蛇だった。首から下はスーツ姿の男なのに、それぞれ顔が豚と猿と蛇なのだ。

「お? しゃっくりか?」

 猿が言う。

「酒弱いのに無理するからだ。吐くなら手伝ってやるぞ」

 蛇が言う。

「お前、合唱会のときも緊張で吐いてたもんなあ」

 豚が言う。

 身動きできずにいると、豚が私の肩を抱き、大便器の前に座らせた。そして蛇が長い舌をしゅるしゅるさせながら、私の背中を優しくさすってくる。

 同級生だったわけがない。豚も、蛇も、猿も。

「おええええええええええええええ」

 私は便器に思いきり胃の中のものをぶちまけた。ほとんど飲み食いしていなかったのに、後から後から豪快にあふれ出て、私は滝のように吐き続けた。

「よーしよーし、全部出しちゃえ」

 豚が言う。

 嘔吐は一向に止まらず、そんなに胃の中に何があったのかと思うほどの量だった。便器からあふれそうになると、手際よく猿が水を流した。

「おうえええええええええええええええええ」

 まだ出る。出続ける。

 ああ、もしかしたら私はひどく酔っ払っていたのかもしれない。それで、みなのことを思い出せなかったのかもしれない。

「うううえええええええええろおろろろろ」

 吐き続けている内に何故だかだんだん気持ち良くなってきて、私はもっと吐いた。すると、さっきまで汚い濁った黄色の液体だった吐瀉物が、キラキラと光る透明な流水に美しくなり、それが嬉しくて私はもっと吐いた。

「うぇおおおおおおおおおおろぉぉぉぉぉ」

 私は虹を架けているような心地だった。

「よし」

 猿が言った。

「全部出したらすっきりするから」

 豚が言った。

 しゅるしゅるしゅる。蛇は舌をのぞかせながら、私の背中をさすり続けている。

「よし、よし。いいぞ、その調子だ」

 もう一度言って、猿が便器の水を流した。

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