アノマリアの挑戦
「なんてやつ……」
アノマリアは上がった息を整えながら、自分の周囲を猛り狂って動き迫る敵の威容を見上げた。
先端の中心からぞろぞろと湧き出してくる黒光りする巨大な鱗が、絶えずその長大な体躯を伸ばし続けてアノマリアを追いかけていた。その突進力は凄まじく、あらゆる遮蔽物を
戦場はあっという間に更地となり、床は穴だらけとなった。
彼女はあの怪物を仕留めなくてはならない。
今まで、どれほどの戦士達がこのストロングホールドに挑んで散っていったのか。螺鈿大地に住まうものとして、その命の最後の使い道として、ふさわしい相手だと彼女は確信していた。彼女もまた、戦士なのだ。
アノマリアは
彼女の両腕に巻き付いたふたつの
その名を〈
それはかつて、偉大なエントリオと共にあり、
彼女の腕の一振りが
だがしかし敵の耐久力は、まさに無尽蔵だった。どれだけ焼こうが切り刻もうが、続々と鱗があの中心から湧き出してきて、しばらくすればあっという間に元通り。いったいどういう仕組みなのか理解できないが、
数十分としない内に、形勢は著しくアノマリアに不利に傾いた。原因は彼女のガス欠だった。
現
そこからは逃げに徹し、彼女は体力の回復を待っていたのだが、状況は好転しなかった。
――あれを
アノマリアは苦笑を漏らし、小さく首を振った。ニカイドウカオルという、なんともひ弱そうな頼りないエントリオの顔が、さらにはビヨンド号という心躍る
彼らと共に行く未来は自分が断った。
「おじさま」
アノマリアの意識が一瞬だけ、ヨルムンガンドから離れた。
はっと我に返るアノマリア。
彼女が横に飛んだ時と、ヨルムンガンドが
「
ごろごろと床の上を転がり、立ち上がると
だらだらと温かい血が足を伝い落ちていくのが分かった。しかし痛がっている時間はない。鱗大蛇は空中で転進し、再びアノマリアを押しつぶすようにぶちかましてくる。
「――ここまで……かッ‼」
アノマリアが獰猛に口角をつり上げて、両手を高く挙げた。後先を考えない全身全霊の一発を食らわせてやるためだ。
しかし、それももう、関係ない。イタチの最後っ屁だ。
アノマリアの周囲につむじ風が巻き起こり、長い黒髪が舞い上がると、彼女の全身が
彼女が渾身の一撃を下す、まさにその直前。
全身を
「っ――! うそ……」
アノマリアの脳裏にフラッシュバックした映像がある。
ストロングホールド汚染の中心にあり、幾人もの英雄を返り討ちにしてきた、あの凶悪なイグズドを
自分を絶望の淵からすくい上げた、あの男の光。
「なんで――っ⁉」
アノマリアは慌てて腕を下ろし、ため込んだ
再び蟻塚城全体が恐ろしげに揺れ、腹の底を突き上げる轟音が来た。
――間違いない。これはガウスライフルだ。
アノマリアは唇を噛んだ。泣きわめきたい気分だったが、そんな暇も与えてもらえない。ヨルムンガンドが床を抉りながら迫ってくる。
腕を振り上げ、振り下ろす。
風が吹き、彼女の身体を滑らせてヨルムンガンドの進路から逸らす。足を負傷したアノマリアには、こうして突進を避け続けることしかできない。しかし、十分な予備動作が取れず、徐々に風の力は弱まっていった。
床はすでに穴だらけ。身体を滑らせる方向は限られていた。
アノマリアが次に逃げるべき方角を探して首を振った。そんな何気ない動作を、他愛もない小石につけ込まれた。
石に
その時に両手も突いてしまった。
風を起こすために腕を振り上げる動作が一拍遅れた。
怪物の姿が、急膨張した。
「カコムンジャ! お前はカコムンジャだっ‼」
そんな叫び声が聞こえた。
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