突然の告白
「通信機とコンタクトレンズはダメだ。フレキスケルトンも一部損壊したが、奇跡的にも、ガウスライフルを撃つために必要な経路が無事なのは不幸中の幸いだった。フレキの破片で怪我をしなかったのも、アノマリアの〈ダズリング・メンブレイン〉のおかげだな」
アノマリアの首から声が聞こえてくる。ロンロンがスピーカーで喋っていた。
――こうやって改めて見ると、確かに腹話術にしか見えないな……。
あれからしばらく、二階堂はアノマリアの介抱を受けた。
彼の身体に残っていたダメージは、その前のイスランの雷撃によるものだった。
二階堂はバールを避雷針にした。鉄の勝利だった。しかし大半の
鼓膜は破れ、三半規管を初めとする様々な神経系がイカていた。皮膚の一部は炭化し、筋肉の多くも壊死していたらしいのだが、全てアノマリアが治してくれた。その様子を信じられないといった顔で見ていた二階堂。
「――ありがとう、アノマリア」
「お安い御用ッスよ。このアノマリア様の術の腕前は天下一品ッス」
「アノマリアは凄い」
とはロンロンの感想だ。二階堂もそう思う。
何故ロンロンがスピーカーで喋っているのかというと、
二階堂が立ち上がって背筋を伸ばす。
広場中央にはぽっかりと大穴が空いていた。イスランを殺害した後、突如としてヨルムンガンドが動き出して、そしてすぐに床が抜けたそうだ。ヨルムンガンドは床と一緒に下層に落ちていった。それに二階堂も巻き込まれて落ちかけたのだが、アノマリアが引き上げてくれたという
二階堂は深呼吸すると、座ったまま足元から見上げて来るアノマリアに手を差し伸べた。彼女の腕には
一応、形見だからね。そう彼女は言っていた。
「――それじゃあ、帰ろう」
そう言い残し、二階堂は瓦礫の陰に置いておいた工具類を拾い集めていった。バールは床の崩落と一緒に落ちてしまったとロンロンが言っていた。相棒認定したバールなのに惜しいことをしたと、残念そうに振り返った二階堂の視線の先、大穴のすぐ前でアノマリアが立ち尽くしていた。
「? どうした――」
二階堂が歩み寄る。アノマリアの目が沈んで見えた。
「おじさま……ここでお別れッス」
気まずそうに両手を下で組みながら言ったアノマリア。その予想外のひと言に、二階堂は返す言葉を失った。
「実はッスね……自分は決死隊なんスよ。もう街には帰れないんス」
アノマリアは小さく笑った。
「どういう意味だ、アノマリア」
何も言えない二階堂の代わりにロンロンが聞いた。
「このストロングホールドは隔離場なんスよ。ほら、自分の瞳が割れていたの、覚えているッスよね? ここは
アノマリアはぽつぽつと自分のことを話してくれた。
アノマリアはイスランと共に
この
しかしそんな長きに渡る殺伐とした歳月に、やがてアノマリアの心は、自分でも気付かぬ内に荒廃していった。
ある日の朝、鏡を見ると瞳が割れていた。
「――おじさまには黙ってたんスけどね、
「自分みたいに、ある程度腕のある戦士は、ただ朽ちるのはもったいねーッスから。こうやって
「なんなんだ、それは」
二階堂は絶句した。そら恐ろしい全体主義の足音を聞いた気がした。
「自分も、いずれ
「ばかな」と言って二階堂はアノマリアに歩み寄ると、彼女は背後の穴に向かって一歩、身体を引いた。
二階堂はアノマリアの動作の危うさに、歩みを止めざるを得なかった。
「――イスランは? 彼は
二階堂はそこに何か直感を感じた。何かは分からなかったが、彼女を引き留めるために必要な材料が、そこにある気がしたのだ。
「……名前を呼ばれると、
「名前を……呼ぶ……?」
「そう。実際、そうなんスけど……でも進行は止まらないッス。遅くなるだけ。お兄ちゃんはずっと自分に付き添って、症状の進行を抑えて、最後に自分を始末してくれるために決死隊に加わっていたッス。……でも、このストロングホールドには結構な量のイグズドが巣くっていて、そいつらとの戦いで大怪我してしまって。そこからイグズドの体液がたくさん入り込んで、一気にアブザードになってしまったんスよ。最後は、結局、逆に自分が始末を付ける形になってしまった……」
アノマリアはそう言って寂しそうに笑った。
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