第13話「はじめては街を見下ろしながら⑥」

【side隼人】

 冬華が作ってくれた弁当を食べた後、俺たちは適当なアトラクションを探して、園内をぶらぶらと歩いていた。

 そのときだった。


「助けてー! ビーレンジャー!」


 スピーカーからそんな声が聞こえてきた。音のした方を振り返ると、そこにあったのはステージだった。学校の体育館より一回り大きい壇上の上には怪人と思しき着ぐるみとマイクを持ったお姉さんが立っていた。怪人の足元には何人かの子供。先程の助けを呼ぶ声は、その司会のお姉さんが出していたようだ。お姉さんの先導の声に合わせて、会場に集まった子供たちも同じようにヒーローに助けを求めていた。


「へえ、ヒーローショーか」


 会場はすり鉢状になっていて、ステージのある場所の方が俺たちが立っている場所より少し低い位置にある。おかげで通りすがっただけの俺たちの位置からもステージはよく観察できた。


「隼人って、こういうの好きだったっけ?」


 ステージの上に五色のカラフルなヒーローたちが登場し、怪人に捕まった子供たちを保護していた。

 俺はヒーローショーを見ながら呟いた。


「嫌いではないな」


 正直、こういう特撮に対する造詣は深くない。今出てきたヒーローたちがどういう設定のヒーローなのかもわからない。だが、実際、ヒーローたちが戦う姿を見ると、少なからず心が躍るのも事実だった。やはり、こういうものへの興味というのは遺伝子レベルで刷り込まれているものなのかもしれない。

 といった趣旨のことを冬華に説明すると、


「ふーん、そんなもんかな」


 冬華は俺の隣で前にあったポールに手を突きながら呟いた。そんな何気ない仕草ですら最高にかわいいのだから、やはり彼女はすごい。


「冬華はこういうの惹かれないか?」

「うーん、どうだろう。私もマンガ好きだし、ヒーロー自体はわりと好きな方だけどね」

「ああ、ヒーローを題材にしたマンガって一定周期で流行るよな」

「やっぱ、定番なんだろうね。だから、こういうものの面白さも理解できるけどね。まあ、そこまで盛り上がる、って感じではないかも」


 そこら辺は個人の感性によるものなのだろう。俺と冬華は趣味が合う方だと思うが、完璧に一致している訳ではない。その辺りの微妙な違いがこの辺に現われているのかもしれない。

 冬華はヒーローショーを見下ろしながら、何気ない調子で呟いた。

 

「まあ、子どもが居たりしたら、こういうの喜ぶんだろうね」


 俺は彼女の言葉の意味を脳内で咀嚼する。

 子供が居たら……?

 それはつまり――


「子どもができた後のこと、考えているのか……?」


 俺が反射的にそう言うと、


「はあ!」


 冬華は顔を爆発しそうなくらいに真っ赤にして叫んだ。


「そういう意味じゃないから! あ、あくまで一般的な意味で言っただけであって……別に隼人との子どものこと考えてたわけじゃないんもん!」

「わ、解ったから……声がでかいから……」


 近くでヒーローショーを見ていた人たちの視線がこちらに突き刺さっていた。


「あ……うう……」


 冬華は周囲の注目を集めていると気が付くと、しゅんと小さくなって顔を伏せた。照れている冬華も最高にかわいい。

 それにしても、子どもか……。

 俺もまた冬華との間に産まれた子どものことを想像する。


「………………」


 たぶん、今の俺も冬華と変わらない位真っ赤になっているんだろう。そんなことを考えた。

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