第12話「はじめては街を見下ろしながら⑤」

【side冬華】


「そろそろ、昼飯の時間だな」


 隼人は腕時計をちらりと見て、そう呟いた。そんな何気ない動作すら素敵だ。

 隼人の視線の先にはフードコート。そこは、たくさんの人でごった返していた。この時間帯はどこの食事処に行っても同じようなものだろう。

 隼人は渋い顔をして呟いた。


「まあ、どこに行っても待たなくちゃいけないことには変わりない。ここで並ぶか」


 そこで私は口を開いた。


「あ、あの……」


 今更、隼人に気後れすることなんてないんだけど、改めてこういうことを言うのは少しだけ恥ずかしい。だけど、私は意を決して言った。


「私、お弁当作ってきたんだけど……」


 肩にかけていたショルダーバッグを隼人に向かって差し出す。そこには、今日の五時から準備していたお弁当が入っている。髪型を何度も直していたせいもあって、あんまり凝ったことはできなかった。だから、ぎりぎりまで出すかどうか迷ったのだけれど……。


(隼人……食べてくれるかな……)


 私はどきどきしながら、隼人の返事を待った。

 すると、隼人は――


「マジかよ! 早く言ってくれよ!」


 まるでほしいおもちゃを買ってもらった子供みたいに目を輝かせていた。


「ありがとう。嬉しい。冬華の料理はうまいからな」


 そう言いながら、私から鞄を受け取る。


「そうか。鞄にこれが入ってたのか。わりと大きい鞄だったから気になってたんだが……重くなかったか? 俺が持ってやればよかったな。すまん」


 そんな隼人の気遣いの言葉が嬉しくて胸がきゅんとしてしまう。

 ああ、隼人……やっぱり最高だよ。

 と、心の中ではこんなことを考えているけれど、


「べ、別に。あんたのために作ったわけじゃないもん」


 身体はこんな言葉を呟いてしまう。


「きょ、今日は、『デートの練習』なんでしょ! 『デート』だったらこれくらい普通だし……あくまで、練習なんだもん! そこのところ変な勘違いしないように!」


 私のあほ!

 きょうびツンデレでもこんなセリフ吐かないわ!

 だけど、素直になれない。

 幼なじみとはそういう生き物なのである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る