第9話「はじめては街を見下ろしながら②」

【side隼人】


「人が多いな……」


 俺たちは電車に乗り、遊園地にやってきていた。そう、俺たちの「初デート」……もとい、「初デートの練習」は、遊園地だった。

 ここは、はなかたパーク。昔ながらの小さな遊園地である。少し年代を感じさせる古びた感じが、どことなくノスタルジーのようなものを醸し出している。

 アトラクションには長蛇の列……というほどではない。もちろん、人は多いのだが、巨大遊園地のように一つのアトラクションに二時間待ちなんてことは起こりえない。だが、それでも、どこに行こうにも、そこそこの待ち時間は発生してしまうようだった。


「まず、どこから回るかね……」


 俺は入口近くでもらったパンフレットの地図を見ながら呟いた。

 冬華はすかさず言った。


「こういうときって、普通、男の方が回る順番とか考えてくるべきじゃないの」


 冬華はそう言って、鼻で笑った。


(しまった……確かに、そうすべきだった……)


 男なら女の子を楽しませるためにきっちりデートプランを立てるべき……。もちろん、何度目かのデートなら多少、気を抜いてもいいかもしれない。だが、これは初デートだ。もっと、気合を入れてくるべきだった。


(正直、ファッションに気合を入れるのにいっぱいいっぱいだった……)


 冬華の隣に立って、恥ずかしくない格好をするためには、相当な努力が必要だった。普段からファッション雑誌やネットの記事をチェックして流行の情報も取り入れるようにしていたのだが……。

 そこにだけリソースが裂かれてしまったのは手落ちだった……。

 本当は素直に謝りたいが――


「男にだけそういう考えを押し付けるのはどうなんだよ。おまえは考えてきたのかよ」

「あーあ、女の子にそんな物言いするなんてさいてー」


※   ※   ※   ※   ※   ※   ※  


 うそうそ……!

 本当は一緒に居てくれるだけで天にも昇る気持ちだよ!

 そう言いたい!

 言いたいのに、幼なじみの呪いが私を素直にしてくれない……。


(ごめん……隼人……)


 私は心の中で一人、涙を流した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る