第8話「はじめては街を見下ろしながら①」
【side隼人】
「おまたせ……」
日曜日、家の前で立っていた俺の元に天使が舞い降りた。
「冬華……」
「何よ……」
「いや……」
冬華は今日も完璧だった。彼女のつややかな髪は、サイドをタイトロープにし、バックでハーフアップにまとめられていた。また、毛先がふんわりとほぐされることで優しい印象に仕上がっている。まるで、森の中に住む妖精のような印象だ。
首周りに黒のリボンのあしらわれた白のブラウスに、落ち着いたダークグリーンの膝丈キュロット。歩き回ることを意識してか、靴は白のフラットシューズ。肩には黒のショルダーバッグで全体の色調を引き締める。
冬華はお洒落だ。もともと、地上のものとは思えないほどの美しさを持っているのに、ここまでかわいらしさを演出できるファッションセンスまで持っていては、まさに鬼に金棒。彼女の美しさを滅ぼせるものなど、たとえ神にも居ないだろう。
だが――
「ちょっと、デートなんだったら女の子の服装くらい褒めたら?」
「……まあ、いいんじゃねえの。馬子にも衣装っていうかさ」
俺は素直になれない。
なぜなら、俺たちは幼なじみだから!
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
【side冬華】
このファッションは隼人の好みじゃなかったのかな……。
前日はほとんど一日中、一人ファッションショーを決め込んで、今日は早朝四時から準備したんだけど……。髪型が綺麗にきまらなくて、結局、十回以上リテイクしたのに……。
心の中では割とへこんでいたが、そんな感情を表に出すわけにはいかない。
「女の子を素直に褒められない人はモテないよ!」
いや、私がダサいのが悪いんだけどね……。
ああ……。普段から隼人に見合う女の子になれるようにオシャレには気を使っているつもりなんだけど……。私もまだまだだな……。
「うるせえな……。それを言い出したら、おまえだって俺を褒めてないじゃないか」
「あんたのファッション?」
私は改めて隼人を観察する。
神が造った至高の芸術、それが加賀隼人という男だ。
「うーん……」
ベリーショートの髪の毛先はワックスによってねじられ、軽めに仕上げられている。やや無重力気味に仕上げられた髪型は、風を切るようなシャープな印象をもたらす。まるで、戦場を駆ける騎士のようだ。
白のVネックカットソーに、藍色のテーラードジャケット。下はシンプルなベージュのチノパン。足元は白をベースに黒のラインが入ったスニーカー。肩のカジュアルな藍色のトートバッグがファッション全体の一体感を醸し出す。
隼人はお洒落だ。もともと、現実に存在するとは思えないほどのかっこよさを持っているのに、ここまでかっこよさを引き出せるファッションセンスまで持っていては、鬼に金棒。彼の美しさを失わせるなんて、悪魔にだって不可能だ。
だが――
「まあ、及第点かな」
「はあ?」
私は素直になれない。
なぜなら、私たちは幼なじみだから!
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