第4話「甘々の恋は嘘から始まる②」

「ちょっと、隼人」


 私は言う。


「私が買ってきたジュース、勝手に飲まないでよ」


 加賀隼人は、私が寝ていたベッドに腰掛けて、テーブルに置いてあったジュースを飲んでいる。そして、私が作ってきたクッキーに手を伸ばしていた。


「ちょっと、そのクッキー、分けてあげるなんて言ってないじゃん。あと、そこに座られると寝返りうてないでしょ」


 私が立て続けにそう言うと、隼人は背筋を逸らして、横目で私を見た。


「ち、うるさい女だな。こんだけ沢山あるんだから、少しくらいいいだろうがよ」


 隼人は、そんなことをつんつんとした調子で言った。


「まったく、あんたは……」


 などと言いながら、私はため息をついているが、内心はこうである。


(隼人が口をつけちゃったジュースなんて、恥ずかしくて飲めるわけないでしょ!)


 正直に言って、私は加賀隼人にぞっこんだ。

 好きな人と間接キスするなんて、心臓が爆発しちゃうよ。おかげで、私は今真っ赤になっている。

 クッキーだって、「私が作ったものを隼人が食べてくれたんだ……」なんて考えてしまって、嬉しさで胸がいっぱいになってしまう。

 私のすぐ隣、体温が感じられるくらい側に隼人が居たら、「まるで恋人同士みたい」なんて考えちゃって、幸せな気持ちになってしまうの!

 だけど、そんなことを言えるはずがない。

 なぜなら、私たちは「幼なじみ」だから。


 私と隼人は産まれたときから隣同士に住んでいた。だから、自然とずっと一緒に過ごすことになったし、ずっと一緒に遊ぶことになった。いわゆる「姉弟」みたいな感覚が先行したせいで、男女が互いを意識して、離れるような時期になっても、互いの部屋を平然と行き来していた。そこまで近い関係の男性がとびきりのイケメンに成長したのだ。惚れるなという方が無理な話である。

 しかし、そんな感情を面に出す訳にはいかなかった。そんなことをすれば、今の関係が壊れてしまうかもしれないから。そう考えた私は、ついつい、隼人に憎まれ口を叩いてしまう。本当は素直になりたいと思っているのに。

 隼人と付き合うことができたら……そんな夢みたいな妄想を抱えて、私は日々、悶々と生きていた。

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