第3話「甘々の恋は嘘から始まる①」

「おい、冬華」


 俺は言う。


「人のベッドに勝手に寝転ぶなって言ってるだろうが」


 赤瀬冬華は、俺の部屋のベッドで我が物顔で寝転んでいる。ベッドの上には俺が先日買ったばかりのマンガが山積みになっていた。


「俺が居ない間に部屋に入るな。あと、そのマンガ、まだビニールの封開けてなかっただろ。俺より先に読んでんじゃねえよ」


 俺が立て続けにそう言うと、冬華は唇を尖らせて、俺の方をにらんだ。


「あーあ、けち臭い男。ちょっと先にマンガを読まれたからって何だって言うのよ」


 冬華は、そんなことをとげとげしい声で言った。


「まったく、てめえは……」


 などと言いながら、俺は首を振っているが、内心はこうである。


(冬華が寝た後のベッドでなんか興奮して眠れなくなるだろうが!)


 はっきり言って、俺は赤瀬冬華にベタ惚れしている。

 惚れた女がごろりごろりと寝返りを打った布団の上なんて、意識しちまって眠れなくなるんだ。おかげで、俺はいつも寝不足だ。

 マンガだって、「これをさっきまで冬華が読んでたのか……」なんて考えてしまって、中身が手につかなくなるんだよ。

 部屋に帰ってきたとき、先に冬華が部屋の中に居たら「まるで恋人みたいだな」なんて考えてしまって、幸せな気持ちになっちまうんだよ!

 だが、そんなことを言えるはずがない。

 なぜなら、俺たちは「幼なじみ」だから。


 俺と冬華は産まれたときから隣同士に住んでいた。だから、必然的にずっと一緒に過ごすことになったし、ずっと一緒に遊ぶことになった。いわゆる「兄妹」みたいな感覚が先行したせいで、男女が互いを意識して、離れるような時期になっても、互いの部屋を平然と行き来していた。そこまで近い関係の女性がとびきりの美少女に成長したのだ。惚れるなという方が無理な話である。

 しかし、そんな感情を面に出す訳にはいかなかった。そんなことをすれば、今の関係が壊れてしまうかもしれないから。そう考えた俺は、ついつい、冬華に憎まれ口を叩いてしまう。本当は素直になりたいと思っているのに。

 冬華と付き合うことができたら……そんな益体もない妄想を抱えて、俺は日々、悶々と生きていた。

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