あの日の君たちへ

第1話 とある日

「これがホワイトセージ。火をつけて、その煙に浄化したい物をくぐらせるの」


 トーカが水晶のブレスレットを手にし、立ち上った煙にスっスっと通していく。


「パワーストーンを浄化する時は石に合った浄化の仕方が必要なの。

 水に弱い石や日光に弱い石、その都合によってお客様にも浄化の方法を伝えるの」


「でもここに来るような客って、そんなレベルのオカルト知識じゃない気がするけど ? 」


「ええ。でも、ここで働いてるのに『そんなことも知らないの ? 』とは言われたくないでしょ ? 」


 それはそうだけど。


「とにかく石の名前は覚えて、出来れば流行もね。とにかくネットで拡散された情報によって売れ行きに差が出るのよねぇ」


「実際、パワーストーンって効くの ? トーカみたいな魔女が作った物ならまだわかるけど、一般の人はネットとかでも買うだろ ? 」


「大事なのは念の強さね。石はエネルギーをキャッチしやすいってだけ。正直に言えば、プラスチックでもいいのよ。

 大福の御堂の倉庫を見たでしょ ? 人形だけじゃない。洋服とかリモコンとか、よく分からないものまで呪われてる」


 結局見た目と使い勝手か。


「念やエネルギーが強い人は物を使わなくても願いが叶ったりするわけ。

 それがなにか分かる ? 」


「え ? 何が ? 物を使わずお願いが叶う……叶えられる……人ってこと ? 」


「魔術師よ」


「あー ! 確かに。そうなるか……」


「その魔術師も杖やペンタクルを使うけど、それは魔術の……つまり作動条件として欲しいアイテムだったりよ。

 呼び出す天使や悪魔を象徴する物体ね」


「ふーん」


 ポーーーン♪


 コンコン……


「ユーマ、今いいか ? 」


「セルか ? いいけど ? 」


「ダメよ」


「何してんの ? 」


「お勉強よ。ユーマにもそろそろショーケースの中身も仕入れ、販売をやって貰わないと。

 私もみかんも来年は店を空けるようになるし」


「そっか。そうだな」


「なんか用だったのか ? 」


「前に言ってた俺のBOOKの話」


「ああ……」


 何となくトーカの様子を伺う。BOOK・miaはそのままになってるけど、セルのが観れるなら観なくても……。

 ただ、セルのを観たら、その場にミアが存在するんだよな ?

 トーカは日本に来る前の……ミアだった頃を俺に観られるのは抵抗ないんだろうか ?


「ト、トーカはその時代、セルと一緒だったんだもんな ? 」


 俺の意図を察したのか、別段興味も無さそうに頷く。


「私は構わないわ」


「つぐみんも一緒に立ち会いするから」


 だが、その一言に一瞬手が止まる。


「はぁ……よく観せられるわね。まぁ私もロクな過去じゃないけれど。

 セル……あなたの場合は……」


「それじゃ、俺が今……全てに後悔してるみたいじゃないか。

 そこまでじゃないもん」


「止めはしませんわ」


「じゃあ、時間出来たらつぐみんと来てくれ」


「分かった」


 セルの過去………。それが観れれば……。

 あ、そう言えば !


「なぁ、トーカ。俺の家のルーツとか知りたくて……。

 もっとゾロアスター教について知りたいんだけどなにか情報源無いか ? 」


「ゾロアスターねぇ。一筋縄で行きませんわよ。

 歴史や民俗学ありきの宗教な上に、今も信者は多くないわ。

 ずっと不思議に思ってたんだけれど、お父様もその悪徳霊能者に関わってた話聞いて……少し取っ掛りが出来たと思うのよ」


 ゴンと話したことをみんなに言っては見たが、確かにその時、つぐみんとトーカは「うんん ? 」っと、斜め上を見るような仕草はしていた。


「なんでそれが重要なんだ ? 」


「あのね ? 海外の魔女仲間に貴方の仇の話をしたんだけど……まぁ掻い摘んでね。

 その時知ったんだけれど、ゾロアスター教は男性から男性に引き継がれるものなのよ」


 え…… ?


「お母さんが信者ってのはメタトロンの言った通り事実なんだと思うわ。女性の信者もいるから。

 でも、ユーマにゾロアスター教の守護を……襲名したのはお父様だと思うの」


 そんなまさか……。


「……今度……。

 一度実家に帰って親父から話でも聴こうと思ってるんだけど……」


「そうね……。その方がいいわ」


「こっちから神様に「どうなってんだ ? 」って聞ければいいんだけどさぁ……」


 言いかけて思い浮かぶ。

 うん。

 いるじゃん ! 一人 !

 すぐ交信出来そうなやつ !

 あいつがメタトロンも兼任って事は、カトリック教徒の魔女であるトーカは、メタトロンを召喚出来るんじゃないか ?

 メタトロンを召喚したら、来るのはミスラだ。


「アテがあるけど、トーカ、メタトロンって召喚出来るか ? 」


「メタトロンっ !?

 え……出来る……と思うけれど……。相当準備も費用もかかるわ。

 やる ? 」


 費用……費用か……。


 ミスラ呼び出すのにそんなかかんのか ?

 あいつならなんか手軽に来そうだけどな。


「うーん。手段に詰まったらお願いする」


「そう……。ルシファーの眼がそばにいる以上、あまり天使とコンタクトは取らない方がいいかもしれませんわね」


「そうかもな」


 人ならざる者で、ルシファー側じゃないやつ……つまりミスラが同席して貰えば、BOOKで観るセルの過去で何か気付くかもしれない。話だけでもしてみるか ?

 問題は召喚の仕方だが、今までの状況を考えると、俺が誰かと戦おうとすれば、あいつまた「ブッちぎりで勝たせるために来ました〜」とか出てきそうだよな。

 誰かと戦ってピンチになればいいんだ。


「トーカ、あのさ」


「え ? 」


「俺とさ……」


「な、何よ…… ?」




「今から殺し合いしねぇ ? 」



「……覚悟はいい ? 」




 あ、なんか地雷踏んだ。


「じょ、冗談だって !

 頭使ったから、次は筋トレでもしようかなって思ったって事 ! 」


「はぁ ? 早くつぐみんと行ってきなさいよ」


「あ、ああ」


「……あの二人を……救って……」


「ああ」

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