第23話 薔薇の王族
「我が黄薔薇の花弁よ」
取り出した一輪の薔薇。ミラーが空間を撫でるように動かす。何か……描いてるのか…… ? 魔法陣 ?
ザァッ
「なっ !? 」
景色が一変した !?
林 ? 枯れ木が生い茂った薄暗い場所だ。気味が悪い。足元には分厚い腐葉土。感触がリアルだけど……これは幻覚のはずだ。
俺は手を伸ばし、辺りを探る。
俺のすぐそばには大きなチェストがあったはず。黒瀬の部屋は物が少なくガランとして見えるけど、実際王の自室にしては手狭な方だと思う。
数歩歩いて壁を探すが……。どこにも行き止まらねぇ !
〈よう〉
目の前に男。
パーカーを着て、銃を持った……俺の偽物。
「ミラーか ? 」
〈そりゃ違うぜ。俺はお前そのもの。お前の一部だ〉
「そーゆー幻覚だろ ? 」
〈ミラーの使う魔法は幻術だけじゃねぇんだろ。俺を殺ったら、お前の何かが消えるらしいぜ〉
「何かって何だよ」
銃口を向けてもなんの素振りも見せない。気持ち悪ぃ。本当に俺が向けられてる様な感覚だ。
〈俺も知らねぇよ。召喚されたのは確かに俺の方だから、偽物なのは確かだぜ。けど、特殊な魔法らしい。消えるってのも、具体的な事は知らねぇ。記憶なのか、体なのか、感情なのか。とにかく何か消えるってだけ聞かされた〉
偽物なのに倒したら俺に影響あるっておかしくねぇか ?
でも、魔法……魔法か……。この世にどんな魔法があるかなんて詳しくねぇし。
もし本当だったら ?
「本当に俺か ? 質問に答えられるか ? 」
〈いいぜ。頭ん中コピー出来なくちゃ出来損ないの魔法だろ ? やってもいいけど、意味ねぇーよ 〉
「……」
魔法で召喚したとしても……。
俺の一部やなんかなら焔は効かないはずだ !
ドッ !!
一発。
一発だけを脇腹に撃ち込む。
〈おぉっ……すげぇ。痛くねぇ〉
偽の俺は銃撃を受けこそはしたが、血も出ず、ただ衝撃で後退りしただけだった。
効かねぇってことは、ヴァンパイアでも悪魔でも無いんだ。
意味わかんねぇ。
「…… ? 」
焔のグリップをギュッと握る。
おかしい。
焔は弾切れをしない、見た目だけの銃だ。
だが、弾切れはしなくても、俺の疲労は蓄積する。なのに、体調に変化が無い。
俺が強くなった ?
まさか。そんなゲームのようにメリハリの出るもんじゃねぇ。エクトプラズムは霊力そのもの。精神力や集中力を失えば疲労感も出る。
減るもんは減るんだ !
って事は……。
俺が錯覚してるのか ?
歩いた、攻撃した、これら全てが錯覚で、本来の俺は黒瀬の部屋でボサっと突っ立ってるんじゃねぇのか !?
ミラーは俺をどうとでも出来る状態か ?
その時だった !
突然、林の中にドアがズドンと音を立てて現れる。
この扉は !?
「ユーマ !! ヴァンパイアと関わるなと言ったでしょう !? 」
げっ !! トーカ !?
「私というものがありながら、酷いわよ ! 」
何がだよ。
ここにいるの俺の偽物と、婚期逃しかけの家電オバサンと、イエロースネークババアだぜ。
俺はトーカっぽいのに銃口を変え、頭五発、胸二発を撃ち込み撃滅する。
トーカっぽいのは、頭部を失い、サラサラと蒸発していく。
やっぱ幻覚だな。
〈あらら、まじかよ〉
「そういう事らしいぜ ? 」
俺は俺の偽物に焔を撃ち込む。
計二十発。
「ちょっ !! あんた ! ちょっとは躊躇わないわけっ !? 」
霧散していく俺の偽物の側に、ミラーが姿を現す。
俺はすかさず銃口を向けた。
「……ない ! 」
「はぁっ ! ?」
「トーカはあんな事言わない ! 」
「……」
トーカの記憶や感情はコピー出来ても、あの相反したツンデレみたいな謎行動までは真似出来ねぇみたいだな。
トーカは文句を言う前に、ミラーを攻撃するはずだ。その上、見た目に似合わず喧嘩っパヤイし、戦闘狂な上に攻撃が大味なんだ。
「全く !! 今のはあなた自身が、好意を持った人間が現れる魔術よ。それを躊躇わず撃つなんて」
残念ながら。俺が好きなのは今のトーカじゃない。
あの……初対面の日。
あの時うっかり無断霊視した時の……大人のトーカ。
何をどう子供の姿をしていても、子供がすることの無い仕草や、言動、憂鬱な表情まで……元の姿を彷彿とさせる色香。
そして過去を観てから、更に想いが強くなった。
俺はミアが好きなんだ。
力になりたい。呪いを解きたい。早く戻って欲しい。
「なら、俺にその術は効かねぇな」
「ふーん。じゃあ、もう一思いに殺していいわよ ? 」
ミラーは両手を上げ、俺の目の前に歩み寄って来た。
銃口が胸元に埋まる。思わずソコに目が行きそうになるのを堪える。
「この銃で撃たれれば魂も消滅するんでしょ ?
潮時かしらね。王族みんな敵に回って、捕まって、拷問されたら堪らないもの。
ここで殺された方がマシだわ」
銃口から伝わる柔らかい感触。
確かに人の体の感触だ。
けれど……。
この人は髪も長いし、化粧も一般的な女性に比べて濃い方だ。
背丈は俺と同じくらいだけど、高いピンヒールのせいか俺が見上げる形だ。
なのに、何も匂いがしない。
周囲の枯れ木の匂いはこんなにリアルで、吹き抜ける風すら、俺の髪を撫でるように揺らしているのに。
人特有の、コロンや化粧品、体臭、シャンプーや整髪料……。
この女からは生きてる匂いがしない。
じゃあ、本物は ?
目を逸らしたらバレる。
俺は目の前のミラーを見ながら、周囲を探る。
気配を消してるんだ。
だとしたら、一撃で仕留めに来るはず。その刹那の殺気を見抜けるか !?
「知ってる ? 霧崎 悠真。
ヴァンパイアの戦争で囚われた王族は、牢獄で手酷い扱いを受けるのよ。
かつて、この地には他の色の薔薇もいたの。ピンクやオレンジ……他にもね」
「へぇ〜」
集中しろ。
話に応えても、惑わされるな。
「何故いなくなったんです ? 」
「皆、白薔薇に粛清されたのよ」
粛清…… ?
「『軍事の白薔薇』。医療魔法が専門の白薔薇。けれど皮肉にも、一番戦争には強いのよ」
それは黒瀬と百合子先生の技術論議でも言ってたな。
兵隊を回復出来るから、人力は無尽蔵。
「回復魔法は確かに悪魔の中では稀なの。でも、その『軍事』とは ? って思わない ? 回復するだけじゃ『軍事力』とは違うもの」
確かに。俺たち人間の世界で言えば『兵器』の存在が軍事力に繋がる。そして長期化における資金と情報統制。
それらを使うトップになる……政治屋も。
白薔薇の『兵器』とは…… ?
魔法だよな。戦闘機が飛び交うような世界じゃない。
「白薔薇は気に入らない薔薇の一族を殺戮してきた歴史がある。
ビアンダにもね、その罪の血が濃く受け継がれているのよ ! 」
「……歴史の話だろ ? 百合子先生が何かした訳じゃない」
「あら、そうかしら…… ? 本当にそう思ってる ? 」
百合子先生は、気分で他人を攻撃したりなんかしない。
「国がどうとかは知らねぇけど、百合子先生はそんな冷酷なやつじゃないと思うぜ」
「ふん。それは身内フィルターよ。
現に今、あたしはビアンダの策略で領土を青薔薇に奪われかかっているじゃない」
そりゃ自業自得じゃねぇのか ?
ミラーは花びらを抜き取り、手の平の上でふわっと浮かせる。
立体映像が浮かび上がった。紫薔薇城の侵入経路確認の時に使った魔術だ。
「これはあんたの魔術だったんだな。あの時、百合子先生は黒瀬の魔法だって言ってたけど」
「黒薔薇は地図魔法なんか使わないわ。行動前に正確に頭に叩き込む。そして作戦実行は単独行動。……そういう奴よ。
ビアンダは違和感に気付いて欲しくて言ったんでしょうけど、余計な口を挟んだせいであなたは信じてしまったのね」
そういえば、あの時『技術が〜』って話を振っても、黒瀬に化けたミラーは反応しなかった。
いや、気付かねぇよ ! もっと分かりやすくヒントくれよ !!
「おかしいわね……」
映し出されたのは恐らく黄薔薇城の周辺施設だ。城下町は壁のようなもので囲われ、その大通りを何百という民が歩き、談笑しながらパンや果実を持ちあっている。
……幻だけじゃない。離れた場所の映像も立体的に観れるのか。思った以上に複雑そうな能力だな黄薔薇。 諜報活動向きって感じだ。黒瀬と仲が悪くねぇはずだ。使い道がある。
黒瀬も行方不明だし、下手したら最後の最後……黒薔薇は黄薔薇に付くかもな。
「…… ? 青薔薇が見当たらない……」
映し出された映像は五十センチ四方のキューブ状で、ジオラマ模型のように立体的だ。
ミラーはそのキューブを片手でクルクル回し角度を変えて様子を伺う。
「ストリートビューみたいっすね」
「……あれだけ啖呵を切って起きながら何故攻撃をしていないの…… ? 青薔薇はどこへ行った ? 」
俺に銃口を向けられたまま、ミラーは怪訝そうな顔でキューブを見つめる。
「東の外壁門が開いている……何故 ? 」
黄薔薇領土の東と言えば……地獄唯一の海域がある場所。
人魚やセイレーン、海洋悪魔がいる領土なんだよな。
「ま、まさか !? 」
皆が欲しがる水という恵み。
だが、火に包まれた地獄の中では水の存在は大きな災害に直結する。
水の自然災害は、俺たち人間の方が嫌という程経験している。
それを、みつルナコンビなら容易く起こすことが出来るだろう。
東の海域から黄薔薇領土に、大量の海水を流し込む気だ。
「くっ !! こんな事してる場合じゃ……」
「動くなよ !! 」
「ちっ ! 」
「俺を倒してから行くんだなミラー」
ヒュッ !!
耳元で空を斬る音がする !
反射的に身をよじるが、その獲物は俺の上腕を軽々と斬り裂いた。
「クソ !! 」
今そこにいたであろう場所に向かって焔を撃ち込むがヒットした気配がない。
どこだ !!
次はどこから来るっ !!
ィィィン……
武器は刃物。
かなり鋭利だ。
ヒュオッ !!
来た !!
焔のを持つ手が血でヌメる。ダメだ !! 反応出来ねぇ !!
視えた !!!!
刀の切っ先 !!
間に合わねぇっ !!
俺の眼球ピンポイント !
ダメだ !! 突かれる !!
「コケーーーーーッ !! 」
「ぎゃっあ !!!!」
刀の尖端が遠のき、本体のミラーが何かに蹴り飛ばされた。
なっ !? なんだ !!?
「助けに来タ !! オレ 参戦 !! 」
「ジョル !! 」
「よう ユーマ待たせたな」
「黒瀬っ !? 今までどこに……」
景色が元の部屋に戻る。
立っている俺の影の中から、黒瀬がニュロリと這い出して来る。
「うわっ !! キモ……」
「うるせぇ おめぇボコられてんじゃねぇよ 経験値が足りてねぇんだこれで身に染みたろバーカ」
くっそムカつく……………。
「あとよぉ このニワトリなんなんだよ 状況説明しても馬鹿すぎて理解しねぇわすぐ忘れるわ全く会話になんねぇなんなんだマジで !! 」
うーん。否定出来ない……。
「がはっ…… !
ズ……ズモナ王……。白薔薇につくとは、見損なったわ。誰よりも白薔薇の横暴に反対し続けた黒薔薇の一族が !! 」
「はっ 紫薔薇王暗殺なんて聞いてねぇし興味もねぇ 寧ろ俺の姿を使ってよくもやってくれたよな あぁ ? 」
「ぐっ……」
「歴史に拘るなら尚更だ馬鹿女ぁ 俺たち黒薔薇は紫薔薇の分族だぜ でなきゃあんな広い領土放って置くかよ そっこー奪ってるぜ」
黄薔薇が色味を失っていく。また姿を消すつもりだ !!
「そいつ !! 姿消して攻撃してくるぞ !! 」
「大丈夫ダ」
ジョルが長い足で後ろ蹴りを入れる。
「ガッ……あぁああ !! 」
当たった !?
「オレからは丸見えダ」
まじかよ !!
「俺 ずっとおめぇの影の中に居てよぉ 流石にこの部屋でミラーに騙された時はひっぱたいてやろうと思ったけどまぁこの女は必ずこの技を使ってくるのが定石だからな おめぇの相棒のこいつならどんなに隠れんぼがうめぇ悪魔でも見落とすなんざ有り得ねぇ。
『ルシファーの眼』が見つけられねぇ訳ねぇんだ」
「ジョル……」
「ココは任せて行ってクレ !! 」
「お、おう」
とはいえ…… ?
「どこに ? 」
「知るかヨ !! 」
じゃあ、どうしようか。
「あ、百合子先生……助けいります ? 」
椅子に拘束された百合子先生は不貞腐れた顔で目を逸らした。
「いるに決まってるだろ……。何しに来たんだお前は……」
「はぁ……でも……」
様子からして、勝手に椅子から立てないんだとは思うけど、俺にはその仕組みが視認出来ない。
「ユーマ、手首と足首に枷が付いてルゾ ! 椅子のどこかに花弁があるはずダ」
「わ、分かった」
「お前、鳥以下になったのか ? 」
「うるせぇですよ ! 俺には視えないんです ! 黙ってて下さいよ」
花弁って、あんな小さな花びら一枚、この玉座並にデカい椅子のどこにあるんだよ !
「おいっ、何をする !! そこはスカートだ馬鹿者 !! 」
「ヒラヒラ鬱陶しいんすよ ! 」
「普通に探せ普通に ! 」
「見える所に無いんすもん !! ちょっとケツ浮かして貰っていいっすか ? 」
「お前デリカシー無しか ! マジか !! 何か言ってやってくれモナ !! 」
「……ツイスターしてんじゃねぇよ 早くしろめんどくせぇ」
「モナ、そうじゃないだろ !! 」
「ダメだ。こう、捲ってて貰えます ? 」
「バカ ! 私に向かって無礼な !!
おい、ニワトリ ! 視えるんならお前が助けてくれよ ! 」
「オレは取り込み中ナノで。トリだけに」
あいつ今日も、キレッキレに鳥だな。
ジョルは不思議そうに頭を傾げて、倒れ込んだままのミラーを見下ろしている。
「うっ……うぅ……グス……。
あたし……あんな馬鹿共に負けたの ? 」
『誰が馬鹿共だ !! 』
全員揃った !
「俺は真面目に戦ってたのに一緒にするとか !! 」
「戦ってたぁ〜 ? バーカトラップ全回収しまくりやがってバーカ」
「ふふーん ! わ、わたしは戦略どおりだからな !! 」
「ビアンダよォ 覚悟決めて白装束着込んでんじゃねぇよ 心配かけんな出来損ない王族がよ !! 」
「なっ !? モナ、それはあまりに酷い言いようだぞ !! 」
「それ、白装束だったんすか ? 」
「ええい、喧しい !! そんなわけあるか ! 」
「アンタはツッコミしないノカ ? 」
ジョルの的外れな一言に、全員我に返りミラーを見詰める。
「……もう何も……。
降伏するしか。けれどお願い。黄薔薇の民に罪は無いの……。どうか民衆を巻き込まないで……」
もうグズグズだな。
魔法も見破られるわ、土地は水の使い手に人質に取られるわ、他の王からも信用を失うわ……。
この人、立て直しは厳しいだろうな。
「けっ 言うは易しだな ついでにこいつも連れてきたぜ」
黒瀬が姿見のカバーをバサリと取り去る。
写っていたのは鏡の世界の俺たちではなく、見覚えのある黒基調の部屋と、そのソファに座る長身長髪の男の姿。
「セル……」
ソファで足組みをしていたセルの表情は、見ているだけで肌がピリピリした刺激を感じる。
立ち上がり、スルリとこちら側へ移動して来る。
「許すも許さないもこいつ次第だろーがよ」
セルの場合、完全に巻き込まれたからな。
紫薔薇王なんか、事情も分かって無いうち死んだかもしれない。
そもそも、それは……俺が……。
「あ、あのさセル。元はと言えば、俺が百合子先生巻き込んだじゃん ?
百合子先生は黒瀬を巻き込んだし。
元々、黄薔薇は紫薔薇といざこざしそうだったんだろ ?
その、あれだ。火種になったの俺だしさ」
「……」
無言っ !!
怖っわっ !!
えぇっ !? セルっ !! 怖っわぁぁああっ !!
「ふふーん。セルシア。ミラーを殺れ。それで話は付く」
「百合子先生っ !!? 」
「……黙れビアンダ。
ユーマ。お前が協力を頼んだ、この世界の住人とはそういうものなんだ」
まじかよ……。
確かに俺はミラーと戦うつもりでここに来たけど……。
なんか、こうじゃねぇだろ。
「だが、ユーマの監督不行届は俺の責任でもあるからな。
ミラー、赤薔薇の関所に関しては手を引け」
「……仕方ないか。……わかったわ」
「命は取らないでいてやる。
だが、紫薔薇としてもう黄薔薇は信用は出来ない。土地の一部を青薔薇に譲渡しろ」
「土地を !? ……っ、よりによって青薔薇に……」
「東側なら青薔薇達の同族がいる。他の悪魔は容易く攻撃出来ないだろう」
「分配はどの程度なの ? 」
「青薔薇次第だ。九割と言われても条件を飲め。
ズモナ王、この件は終わりだ。つまらない思いをさせたな 。追って謝罪を。
ビアンダ。俺の過去に触れたな ? 白薔薇王に報告させて貰う」
「ひェっ ! ちょ……セルゥ、そりゃないんじゃないか ? 」
「俺の存在も、白薔薇王の掲げる『人間との共存』の輪の中にある。バチカンで蓮司氏との密約も多い中、暗部を覗くべきじゃなかった。
それとも、更に嫌味な言い方をしてもいいぜ。『俺の部下の相談事を逆手にとってヴァンパイア領土を引っ掻き回し、黄薔薇を焚き付けた主犯がお前だ』と報告して欲しいか ? 」
「本当に勘弁してくれ。ここですぐに手を引こう。モナへの依頼もこの時までとする」
一件落着…… ?
なんかスッキリしないのは、前紫薔薇王の死の事実だ。
「よし、帰るか。ユーマ、ジョル」
「あ、おぉ……」
「腹へっタ」
これ、ジョル以外の全員、しばらくお小言モード受けるだろうな……。
仕方ねぇか。
「話は済んだんだ。ビアンダ、ミラーを回復してやれ」
「うっ……。
ふん。分かってる」
百合子先生、頼むから素直に言うこと聞いてくれよ……。
「あ、そうだ。ミラー」
「な、なあに ? 」
「契約した人間に女のマジシャンがいたんだったな ? 」
「そういえば……。あなたも言ってたわね ? 」
ミラーが回復魔法を受けながら俺を見上げる。
ミスラのやつ、ちゃんと伝えてくれたんだな。流石、中間管理職。
「エリカって名前よ。他の契約した人間の紹介で来たの。
でも、渡した魔導書はマジックとは程遠い物よ。
『催眠、暗示にかからない為の魔術』と『結界を張る防御魔術』、それと『移動魔術』の書物よ」
「結界…… ? 攻撃じゃなくて、結界ってどう言う事だ ? 」
なんか、全部身を守る系の魔法じゃねぇか ?
「ユーマ。お前、時間遡行が得意だったよな ? 」
俺もそれは考えて試したんだよな。あのマジシャン二人の事をもっと透視出来ればって。
「何故か分かんねぇけど、視えねぇんだ。そのエリカって人の居場所とかだけ」
「なら、その結界の魔術なんだと思うわ」
「他に何か心当たりないか ? 何でもいい情報をくれ」
「……いいけど。
心当たりねぇ。あの子、何かしたの ? 」
「殺人事件の参考人ってとこだ」
「えぇ〜 ? そんなことになるなんて……」
ミラーが頭を抱える。
「あたしんとこに契約に来た時、献血の代償に魔導書を欲しがったのよね。一応、担当の子が詳細を聴いて、報告は受けたから覚えてるのよ。
確か『姪っ子を助ける為』とか何とか ? まぁ、人に危害を加えないならって……それで短絡的に考えて渡しちゃったのよ」
「助ける !? 姪っ子を !? 」
殺す、じゃなくて !?
「彼女、約束は破ってないはずよ ? もし契約内容に背いたら、ペナルティがあるもの。魔導書も黄薔薇城に戻るし、あの子も命を落とすわ。当然でしょ ? ヴァンパイアだって同じよ。悪魔契約ってそういうもの」
「じゃあ、加害者じゃない…… ? 」
セルも腑に落ちない様子で額をさする。
「催眠や錯覚、暗示……。あのカメラの映像の凶器は……偽物…… ?
コージさんが悪魔憑きの嘘をついているとしても、何か別にある…… ? 」
「でも、捕まったあとの奴がわざわざ頭おかしい振りする理由がねぇよ。余計怪しい奴じゃん」
「嘘 ? 」
ミラーが思いついたように聞き返す。
「嘘を見抜けば……。真実を喋られればいいの ? 」
「…… ??? そう、なる ? 」
「ああ。そうだよな ?
あれは悪魔憑きじゃない。本人がどう思ってるかは知らないけど。何かあるよな ? 」
「それなら、黄薔薇の花弁を使えば……暗示を解くことも、暗示をかけて喋らせる事も出来るわ。どんなにプロだと言っても、所詮人間の催眠術でしょ ? 」
「そういや、その手があったな」
今、思ったけど。
このヴァンパイア領土の中でも、凄い魔法のバリエーションだよな。
もうみんな移動しまくり、幻見せすぎ、回復し過ぎ。
そんな世界なのに……。
「セル……なんでアンタって、そういうの思いつかねぇの ? 」
「俺が知るかよ、他人の薔薇なんて」
やっぱこいつポンコツだな。
俺たちは全員を見送り、みつルナコンビにも事情を話し、ミラーから黄薔薇を花束で貰い帰宅した。
「うわっ !! まじかよ !! 」
時計を見て愕然とした。俺がヴァンパイア領土に行ってから、人間界は一時間しか経過してねぇ !!
「はぁ〜……眠い〜……」
「ほら、立て。寿吉さんに待って貰ってんだから」
「オレ、もう寝なきゃ。初売りのギョウレツに行くカラ ! 」
「そっか、今日から並ぶんだったな。
ジョル。今日は助かったよ」
「エラいか ? 」
「エラいエラい。凄いしエラいよ」
「ケケケ。おやすみなサイー」
「ほら、ユーマ。俺達も行くぞ ! 」
うぅ……。せめて腕の治療するまで待ってくれよ……。
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