第5話 疑心暗鬼 2
「私の話は祖父に聞いたものだ」
百合子先生の祖父は山吹 蓮司。現白薔薇王だ。
ジェー討伐の時にセルのRESETを止めて、俺の意志を尊重してくれた人だ。
「我が一族の秘密事項もあるのでな。
さっき聞いた話に関係のあるものだけを抜粋するが……。
まずBOOK・miaを観た二人に聞くが、その時西暦何年だった ? 」
西暦……あれ ? 俺、ミアとメグの居た自宅でカレンダーを見たな。
「確か……1930年代…… ? 思い出した !!
1935年のカレンダーがあった。禁酒法がどうのって話してたのを観たんだった」
「ええ。私もそう記憶してる。妹さんがポゼッションされた日は、丁度クリスマスで教会に行ったのよね。だから、トーカがマグヌスとダンバースの教会に逃げ込んだのは……年末よね多分」
「今、2020年代だぞ ?
その時すでに、セルは司祭として教会にいたんだろう ?
仮にトーカの一件が九十年前だとしても、更に歳をとっているということだ」
あの時のトーカ……ミアとメグの外見は二十代半ばくらいだ。俺より少し上って感じ。九十年に二十五を足して……あ、止めよう。これ考えたらヤバい気がする。メンタル的に。
つぐみんが首を捻りつつ、悩み込んだ。
「それについては聞いたことがあるのよ。
セルに「なぜ歳を取らないの ? 」って。
トーカが子供のまま歳をとるからですって」
トーカはマグヌスの呪いで子供なのに、セルがヨボヨボでおっ死んだらトーカは頼るところが無くなるな。確かに。
「じゃあ、普通にダンバースにいた頃まで見た目通りの歳で、その後に不老になったのか ? 」
「本人はそう言ってたわ」
自分のそばでせめて元の年齢に戻るまでと思ったのかもな。
「百合子先生はどう思います ? 」
「いや、だからな。
お前ら、よく考えて見ろよ ?
バチカンで枢機卿やってる神父が突然、不老になったんだぞ ?
神の御力、なんて事は無い。
私が言うのもなんだが、死は皆平等だ。ヴァンパイアの私も、人間とは違うが歳はとる」
「つまり、羨ましいと ? 」
「うるせぇ、内申点やらんぞ ! 」
俺、生徒じゃねぇよ ! 口癖なんだろうか ?
「あ〜もう ! だから !! もっと大事なことがあるだろうが ! 」
不老になったセルの事…… ?
「あいつが異例の若さで枢機卿まで上り詰めたのは、『RESET』という神の加護があったからだ。加えて、トーカは頭数に入っていないが、悪魔祓いでは全戦全勝。『TheEND』も手の内にあるわけだからな。
若くして優秀なRESET使い、それもバチカン公認の神父が存在する ! とは噂で聞いていたのだ。
それも双子の、強力な魔術師もお付きでな ! 」
「そう言うのも、地獄で噂になるんですか ? 」
「勿論だ。誰しも役職を奪われたくないからな。悪魔達はエクソシスト達の目の届かぬ所で獲物を探す。
それらは、同じ地獄に住む我々、ヴァンパイア領土にも外交で話題が出る」
「外交で噂に…… ?
うん。確かに無敵よね……。
あれ ? でも、そこまで無敵なら、何故バチカンでの悪魔祓いには失敗したのかしら」
次々、湧き出る疑問に、百合子先生は人差し指を立ててちっちっちっと話を戻す。
「まず。その最強神父は、不老の力をどう手に入れた ? 」
「…………」
「…………マグヌス……、現スルガトに頼んでとか ? 」
「それは有り得んのだよ」
百合子先生が首を横に振る。
「トーカが受けた年齢の魔法は『人間の魔術師』だった頃のマグヌスが掛けたものだ。
そういう類のものは、私には視えるのだ」
視える……?
「古来、ヴァンパイアは人里に降りると、人間を物色して血液を得た。
その時、最も気をつける事が魔術師の存在だ。ウィッチ、ウィザード、聖職者、時には悪魔や天使も。
襲った人間が魔女で返り討ちにあったり、魔女の主人の悪魔が大物だったりするとまずいのだよ」
「あぁ。なるほどね。悪魔契約をする悪魔側からすると、人間の願いを叶えてあげただけで、殺されたら自分の手元にその魂が来るとは限らない。
外交があるってことは、自身の一族が不利になる様な相手は避けて人間を選んでいたのね」
「ああ。だから、私には目の前にいるソイツが、魔女なのか聖職者なのか丸分かりなんだよ」
………え。
………え、って事は……。
「じゃあ……セルは……神父じゃない……ってこと ??? 」
「そんな……。まさか」
百合子先生は肯定の沈黙。
「確かだ。
だが、お前らの悩みからすると、いつからかってのが問題だな。
バチカンから依頼が来た時は、まだ普通だったんだろうな。
不老になったのはその後だと推測される」
「でも……不老の話が、双子の話とどう関係があるんですか ? 」
「ここからが祖父の話だ。
セルはこの辺では『元枢機卿』って呼ばれてる。ホームページの来歴にも書いてある通り間違いではない。
だが通常、降格というのは『何かしました』って事だろう ? 年齢で引退ならまだ分かるが……。あいつの場合そうでは無い。
それで年齢の話をしたのだ。
問題は『何をして本部から追い出されたのか』だろうな。一応、エクソシズムに関してはプロ中のプロだ。バチカンの研究所も手放したくないのだろう。
『神父、と言う肩書きはそのままに……枢機卿という地位は剥奪されたが、危害は無いので日本へ異動させた……』
これが私の祖父の話だ」
ははーん。
ジェー討伐の時も。
セルはヴァンパイアである蓮司さんに、どうも頭が上がらない様子だったもんな !
「白薔薇王は、バチカンにも顔が利くんですか ? 」
「ふふーん。突然出向いてお茶しよーよ ! って関係ではないがな。
人間と共存をするには、それなりに挨拶を済ませなければならない場所や人間がいるからな」
少し、分かってきたかも。
「なぁ、つぐみん。
あいつが自分で聖水作ったり、RESETを使った所を……見た事あるか ? 」
「………え ? 」
俺はBLACK MOONに来てから、一年半。
あいつが聖なる術を使うところを見たことがない。
「俺が悪魔憑きにあった時も、ジェー討伐の時も、華菜さん家のウォーターサーバーを聖水に変えたのも、全部セルじゃないんだよ……」
「じゃあ、彼は何者なの ? 」
そう聞かれると『不死の男』としか言いようがないけど。
「いや、一応神父なんだろうさ。世の中でも、悪魔祓いに使えるほどの強力な聖水を作り出せる聖職者なんて、少ないものさ。
今のオンライン教会は機能してるんだろう ? 」
「……してますね……。クリスマスもミサがあるみたいだし……」
「あー……。まずまず懺悔室みたいなのの予約も入ってるよな ? 」
「だとすれば、恐らく。
セルは神父 兼 男魔術師〈ウィザード〉だと考えるのが普通だろうな。
悪魔と契約して不老になったのだ」
「セルが……悪魔契約者…… ? 」
「じゃあ……RESETは使えない…… ? ジェー討伐の時にセルがRESETしようとしたのはフリ ? 」
「有り得るかも。本当に使えるなら、わざわざカエルの血を集めないわよね ? 」
「それについてはどうだろうな。
光希もルナも雨を聖水に変えれるし、みかんは生まれつきRESETが使える。
RESETとTheENDに関しては、宗教のしがらみは無いのかもしれんぞ」
「あぁ、信仰心については俺もそうだしなぁ」
「トーカも魔女だけど、天使召喚出来るって言ってたわね」
「悪魔契約者には二通りがある。
一つは、自分の何かを悪魔に差し出し、望みを叶えたり魔術を覚えたりするタイプだ。
もう一方は、天使も悪魔も関係なく召喚し、それらを使役するタイプ。後者は術者が主人なのだ。かのソロモン王がそうだったように」
「…… ???
ソロモン王って聞いたことある。俺が憑依された時、トーカがそんな事言ってたな」
「あー。あれだ。アーサー王の魔術師バージョンみたいなもんだ。そーゆー、なんか伝説級の。あれだ」
先生、面倒臭くなってない ?
説明が酷い手抜きだ……。
トーカは後者か。天使も悪魔も召喚できるって言ってたしな。
「まぁ、じゃあセルはウィザードってことで仮定して……。
で、セルは俺たちに隠してるよな ? 百合子先生にはバレバレなのに、よく店に入れたりしたな。
いつかバレるな〜とか思わなかったのかな ? あ、でも蓮司さんは公認なのか……」
「私はついでだな。みかんをBLACK MOONに紹介したから。
RESET使い同士ならと思ったし、つぐみも面倒見がいいから、安心出来る居場所だと思った。
そうだな。私もセルと話はしても、何かさぐり合うような話はした事ないな。実際、私はヴァンパイアで、人間の魔術師が何人いようと宗教的なしがらみもないし、無関心だ」
「ち、ちなみに大人な関係とかは…… ? 」
「ああん !? あるわけ無いだろーが !!
私から見たらジジイだぞ !!? そんな質問出るのが信じられん !! 」
つまり百合子先生はセルとトーカより年下か。俺の予想より先生、若かった !!
「だいたい、私は王族の身だぞ ? 人間の……それも得体の知れない魔術師と恋仲になるものか。
あ……そういえば。お前、トーカと恋仲だったな……。なんか、すまんな」
「今そんな話してないですよ !! 」
「でも、先生。身分違いの恋ってのもいいんじゃないのかしら ? 」
「ふっ……青いな。
私は確かにあいつらよりは若いが、最早そんな歳でもないのだ。
もうな……城に帰ると見合いだの接見だのなんだの……。
やめてくれよ〜。私、人間界でお湯の出る水道でシャワーを浴びてクーラー効いた部屋でアイス食べてワイン飲みながらデカい液晶で映画観たいんだァ〜っ !! 」
あぁ。ダメだ。
白薔薇のビアンダ殿下は地球の文明利器が恋人のようだ。
話題を変えよう。
「えと、じゃあ。
次にガンドのBOOKだけど。
百合子先生、紫薔薇王に事情を話して、本人が同席出来なくても閲覧出来るか聞いて貰えますか ? 」
「ああ。わかった。
だが、もし断られたら……行き詰まるぞ ? 」
その時はセルを問いただすしかないな。
トーカのBOOKの続きを見てもいいけど、これだけの証言が出たら、本人に聞く方がいいだろう。
「つぐみは分かったが。ユーマ……お前は復讐の片棒を担がされながら、何故セルに直接聞けんのだ ? 」
やっぱ言う羽目になるよなぁ。
本人のプライバシーの為にも、最後の思いやりだったけど……。
「俺……時々、そいつの過去を視ちゃう事があって」
「あぁ。そう言えば、初対面でもトーカを透視して怒られてたわね」
「そうそう。それそれ。
もう癖になってたみたいで、セルにもやっちゃったんだよな」
「何が視えた ? 」
「……今より老けてやせ細った……セルの姿っすね。ベッドに拘束されてました」
「なるほどな。波乱万丈な神父って訳か。
しかし、埒があかん。今日は話をまとめよう。
私は紫薔薇王に交渉。
ユーマ、お前はアカツキでセルとトーカの部屋を探ってこい」
まじか。でも、もしかしたらセルの部屋で悪魔になったセイズと出会すかもって事だよな。悪魔ならTheENDで倒せば、セルの復讐は終了だ。本人が望んでるのか何なのかは不明だけど。
「私、後戻りしないわ。ユーマ、出来ることがあったら言ってね」
「ああ。ありがとう」
つぐみんには、俺がアカツキに行く時ジョルを預けて置こうかな。それとも連れていった方が役立つのか…… ?
何であいつまで双子の世界に飛んだんだか……それも謎だな。
「先生も情報ありがとうございました」
「構わんよ。怪我だけせんようにな。
では、上に戻ってタダ飯を頂こうじゃないか ! ふふー !! 」
仮にも王族の殿下にしては、妙に嘆かわしいほど所帯染みた発言だ。
「先生、お見合いっていい人いないんですか ? 」
「やめろ。何も聞こえん ! 」
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