第18話 検証中の珍客
店に戻ると、テレビの液晶に式場を写した動画がセットアップされていた。
「座ってちょ。
なにか気になったら言ってね〜」
みかんがリモコンを手にする。
「心霊動画検証ってやつか!」
これが一番得意なやつは……大福だよな?
俺の左に座った大福は夕飯のいい匂いをさせながら、なにかブツブツ呟いている。
「観たら食べれる。観たら食べれる。観たら食べれる……」
あんた昼飯食ってたろ!
ああ。そういえば俺も地獄に行ったぶん、時差ボケしてるからすげぇ腹減ってんだよなぁ。今日、仙台に来たばかりだしさ。
「じゃあ、私は車を用意しておくわ」
つぐみんが物置からキーの束を取り出す。
「あれ? つぐみんは観ないのか?」
全員が一瞬押し黙る。
くそ〜また地雷か?!
「私、霊感0だし。基本、霊とか信じないから。
観たくないわ」
まじで!?
「そ、そうなんだ」
まさかのオカルトアンチかよ!?
ここにいながら!?
つぐみんの絵馬って、視えなくても出来るもんなのか。と、言うか信じてないっていいのかそれ……?
「プクククク! つぐみんがBLACK MOONに来てトーカにクロツキに堕とされた時さぁ! コキュートスの先っちょまで行ったんだよ!
あっはははははははははははははは!」
コキュートスの最後って第九層? いきなり地獄の最下層に堕とされたのか。
き、気の毒すぎる。
みかんは大笑いしてるが、ことの重大さ分かってるのか?
「うるさいわね!この世に浄土や地獄があるのは分かったわよ!
でも、全部がオカルトじゃないってこと。
今回だって中沢さんが自死したのは確か。でも、痴情のもつれかもしれないじゃない?」
言ってることは分かるんだけど、今俺の後ろに中沢さん憑いてるしな。大福が話せるだろうし、俺もクロツキで本人と話した。
これは……メンバーはもどかしいっつーか、からかいたくなるだろうな。
つぐみんはうさぎみたいにダンダンと足音を鳴らしながら地上へ上がって行った。
「じゃ、再生するね」
映像が流れる。
トーカとセルが支配人に挨拶して、しばらくすると支配人がフロントに向かって手招きする。
案内人として佐藤さんを紹介されて………。
しばらく式場のやり取りが映る。大福の持っていた録音音声と俺が持ってたカメラも、特に変わったことは無い。
あの佐藤ってスタッフの女が、精神的に不安定でヒステリーを起こしただけだ。
全員で画面を眺めるが、なんのリアクションもない。何も写ってないもんな。
大福とみかんはヘッドホンをしている。
「俺はいいの? 霊の声とかヘッドホンで聴けるのか?」
「霊聴が強い人間なら無音でもソレだけを感じとるのだけれど、この二人はダントツで耳が優れているの。大福は霊聴に敏感。みかんはこう、野生的な……慣れね」
野生的なのはなんかわかる。ジャングルでもラッパ吹いて生きていけそうだもんな。
「慣れってどういうことだ?」
「とにかく聴力が優れているの。どんなに人が大勢いる場所でも、遠くにいるものの音や声を拾い聞く」
「それは……なんかの、異能力か?」
「いいえ。普通の人間にも高い割合で存在しますわ。それに幼い頃から複雑な音楽を聞き続けたせいもあるでしょうね。音感もいいのよ」
へぇ〜。
二人がヘッドホンを外す。
「うぇ〜っ! なぁ〜んも聞こえない!」
「俺も聴こえないし〜、特に視えないねぇ〜。
あぁ。ほら、今は鏡に中沢さんがぁ。ほら」
大福が画面を指さし、リモコンで動画を止めた。
これは俺が持ってたカメラだ。
チークルームに入ってから、合わせ鏡の中でDIVEする俺をずっと写していたもの。鏡を向けてカメラを置いたんだった。提灯に火をつけてから、椅子を移動した。合わせ鏡の中で、じっと椅子で俯いた俺。数分してトーカが入室した。
しばらくした後に、大福が一時停止した。
そのタイミングは俺がクロツキから戻った時だった。
大福はこの状態で、鏡に写った中沢さんが視えるというわけだ。
確かにこの時、俺は実際に鏡に映った中沢さんを視てる。
でも、録画のこの映像では視えねぇ。
「まじかよ。俺も確かに視たぜ。でもこの映像では視えねぇ。
これで大福には視えてんのか……」
「うむー。普通には見えないんだけどねー。霊視するとドラマとか写真でも居たりするねぇ。にゃははは」
とんでもねぇな。
新しい写真の楽しみ方見つけたな。
「トーカがチャペルの十字架を拭き取ったのは? あれはなんだったんだ?」
トーカはため息一つ、ポーチからその小袋を取り出して、テーブルに放り出す。
「ここでは伝はあっても、科学的な成分分析は時間が必要なのですわ……今回は忙しくて……」
トーカが弁明するようにメンバーを見渡す。
その視線が一瞬、俺のずっと背後の方で凍り着いた。
「ちょっと、今日は取り込み中よ!
なっ、なんで貴女が……」
振り返ると、バーカウンターに一人の女が座っていた。大きな胸を包むまっさらなブラウスに、スリット入りのタイトスカート。スポットライトがウェーブした髪と長い脚の黒いストッキングを、蛇のようにヌラヌラと光らせる。
とんでもねぇ体つきの美女だ。ただ、少し年上というか……大人の女性って感じだな。
女はショットグラスを一気に飲み干し、冷めた視線で俺たちを一瞥した。
「頃合いだと思って来たんだよ、馬鹿物。なにか文句はあるのか?」
これまた、気の強そうな女だな。もしかしてセルの女運とかじゃねぇのか? 悪そうだもんなぁ!
「あ、百合子先生〜っ!!」
みかんが女に抱きつく。
先生?
みかんの先生? この女が?
じゃあ旺聖高校の教員か? きょ、教員にしてはエロ過ぎだろ! ダメだこんな先生は! けしからん!
「私の顧問だよ! すっごくクール美人の〜!!」
クール……ってか、性悪そう。
みかんは懐いてるようだけど、トーカが臨戦態勢だ。
「みかんが呼んだのか?」
俺の問いにセルも苦笑いだった。
「さぁ……彼女の行動はいつも読めなくてね……。
山吹さん、みかんの部活はすまなかった。急な仕事で……新人も入ったから、みかんの助けが必要だったんだ」
「聞いたさ」
「では、今日はいつものものを?」
「要らん。教え子が危ないから監視に来ただけだ。
今回お前たちが何をするかわからんが、美香は置いていけ。危険だ。
顧問として忠告に来た」
忠告って、ここは一般人は入れない店だろ?!
なら、この教員ってのは店の客ってやつか。
「………でも、まだ途中だし……」
「キリのいいところまで待つ。送っていくから、今日は帰るんだ」
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