第22話‐B面 時任秋良は釈然としない。

その日、帰宅すると部屋の前に例の人――辻村さんが待っていました。

「よっ。おかえり、お嬢」

 ぎらりと光る頭部と双眸。

「ひっ」

 Uターンしかけた僕にレーコさんが釘を刺してきました。

「逃げんな。向き合うしかねーぞ。オマエんちはココなんだから」

「ううっ」

「まあ、そう邪険にしてくれるなよお嬢」

 僕が足を止めると、辻村さんは凶悪な顔に笑みを浮かべました。こわいです。

「お嬢、俺ぁこんなナリだけど、アンタに危害を加えるつもりは毛頭無えんだ」

「ハゲなだけに毛頭無い、と。ハハッ」

 レーコさんは楽しそうに笑っていますけど、僕は面白くないです。


「あの、あなたはどうして……ち、父の言う通りにするんですか?」

「時任のアニキは俺の恩人だからよぉ」

「恩人?」

「まあ、つまんねえ話だからしねえけど、あの人には恩もあれば義理もある。頼まれちゃあノーとは言えねえのさ」

「102号室に住むように頼まれた、んですか?」

「そうだな。あとはお嬢のボディガードもな。っと、これは言っちゃ駄目なやつだったか。ハハハ、忘れてくれ」

「……」

 ボディガード? 僕の? あの人がそんなことを?

 あり得ないでしょう……。


 僕の釈然としない気持ちをよそに辻村さんはにっこり笑って右手を差し出して、

「だからまあ、よろしく頼まあ」

 と言ってきました。

 僕は握手をしながら、

「……はい。よろしくお願い、します。じゃあ、今月分の家賃をください」

「うっ」

「はい?」

「家賃はちょっと待ってくれ。今、手元不如意なんだ」

「ふにょい」

「来月には絶対払うから! な! な!!」

 僕は握手した手をぺしーんと払いのけました。

「今月中にお支払いお願いし・ま・す!」

「世知辛れえなあオイ」


 絶対嫌がらせです。

 辻村さんを送り込んできたのは絶対の嫌がらせですぅ!


「くっくっく」


 レーコさんは楽しそうにずっと笑っていました。

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