第23話「201号室」

第23話-A面 辻村狂介は拾ってしまう。

 引っ越しの荷ほどきはすぐに終わった。

 何せ手荷物なんざ殆ど無い。

 アニキからの餞別でベッドと冷蔵庫が届いたくらいだ。

 衣類の類も最低限しか持っていない。


 お嬢の件があるからこのアパートからそうそう離れていられないとはいえ、今の俺は自由だ。塀が無いってのはいい。


 窓も開け放題。

 ベランダにも出られる。


「ん?」

 

 タバコを吸おうとベランダに出た俺は、そこに何か濃い色の布が落ちているのを発見した。


「なんじゃこりゃ」


 俺のモノでは勿論無い。

 ついでにこのアパートは新築らしいので、前に住んでいたヤツのものということもない。

 落とし物。

 隣のお嬢のモノだろうか。


「よっこいせ」

 俺はソレを拾い上げてみた。


 ……布?


 広げてみるとソレは下着だった。小さい布面積でその上透けていて、派手な刺繍。Tバックだ。


「あのお嬢が? コレを?」


あんな顔してこんなもん履いてんのかよ。

ってイカンイカン。恩人の娘のナニを想像してるんだ俺は。

首を振って妄想を頭から追い出すものの、現物は手の中にある。


「まあ、持ち主に返すのが筋ってもんだよなあ」


 やれやれ。

 タバコは後回しだな。

 俺は表に出て、隣のピンポンを鳴らした。


 ややあってバタバタと物音がして、明らかにドアスコープを覗く気配がして、それからようやくドアが開いた。


「おはようっす、お嬢」

「つ、辻村さん何か、ご、御用ですかっ」

 警戒心バリバリな猫みたいだな、と思いつつ、

「ほらコレ、ベランダに落ちてたんでな。アンタのだろ?」

「はい? なんですかこれ」

「下着」

 と俺が答えた時にはお嬢はTバックを広げて赤面していた。

「こ、これ僕のじゃないですよ!」

「あれま」

 セクハラ案件か。

 しくじったな。

 仕方ない。

 そういうこともあるわな。

「でも、他にこのアパート、人住んでるのか? アニキはまだ全然入居者いない、って言ってたけど」

「たぶん、201号室の方のものかと。こ、コレは一応、大家として? お預かりしておきます」

「よろしくな。お嬢は健全なパンツ履いとけよ。そういうのは十年早い」

「余計なお世話ですぅ!」

「はっはっは。じゃあな」

 お嬢は無言でドアを勢いよく閉めた。

 ちょっとずつでも懐いてくれないかねえ、この猫ちゃんは。

「――さて。タバコタバコ、っと」

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