第18話-B面 瀬戸環はドア越しに話す。

 三波さんの家に着いた。

 隣のアキラの家があった場所は何やら建設工事中だった。

 と、今はそんなことよりアキラだ。

「どうぞ」

 三波さんに招き入れられ、二階のアキラの部屋の前まで案内してもらった。


 私は意を決してドアをノックした。

 それから声を掛ける。

「私、瀬戸だけど。アキラ、起きてる?」

 返事はない。

 もう一度、ノックしようか。どうしようか。

 迷いながら握った手をふらふらさせていると、

「えっ? なんで?」

 部屋の中からアキラの声がした。

 よかった。起きてた。

「寝てた? もう放課後だよ。三波さんにお願いして、上げてもらったの」

 ドア越しに話しかける。

「そうなんですか?」

「そうだよ、アキラちゃん」

 隣にいる三波さんが頷いた。

「それで、どうしてここに――」

「アキラがずっと休んでるから、心配で。私だけじゃないよ。三波さんも。それに、あのふたり――加山と嶋野だって気にしてた」

「それってどういう」

 どういう、ってそんなのひとつしかない。

「みんな、アキラのことを心配してる、ってこと」

「えっ」

「そこ、驚くとこ? 変なこと言ったかな、私」

「いや、そんなことはないですけど、でもちょっと意外っていうか」

「だから、顔を見せて。アキラ」


 返事はない。

 でも私と三波さんは待った。

 長くて短い沈黙の果てに、アキラの声がした。


「――僕、今まで生きてきた中で今、一番幸せです」

 私と瀬戸さんは顔を合わせた。

 自然、笑みがこぼれる。

「それなら私たちも嬉しいよ」

「アキラちゃん、出ておいでよ……!」

 

「は、はい」

「アキラ!」

「アキラちゃん!」

 ドアが開いたのと同時に私と三波さんはアキラに抱き着いた。

「あれ? 瀬戸さん、エミちゃん――なんで泣いてるの?」

 不思議そうなアキラの声が耳に届いたけれど、そんなことはどうでもよかった。

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