第19話「不幸Ⅱ」

第19話-A面 時任秋良の世界は狭い。

 僕はドアをノックされる音で目を覚ましました。 

 笑美ちゃんか、笑美ちゃんのお母さんかな……。

 迷惑かけてるな、とは思います。

 けれど億劫で何もする気になれません。


「相変わらずシケたツラしてやがんな、アキラ」

「!?」

 レーコさん! レーコさんだ!

「えっ? なんで?」

 どうして戻ってきたんですか?

「喜べアキラ、昨日から今日にかけてのオマエの不幸指数は世界一を記録した」


「そうなんですか?」

 ていうか不幸指数ってなんですか。

 そんな僕の内心の疑問は無視して、レーコさんは笑った。

「おかげでアタシの見習い期間は無事終了! 晴れて一人前の疫病神ってわけよ」


「それで、どうしてここに――」


「呆けてんなよバカ。そんで、こっからが重要なんだけど、業界最大の不幸特異点であるオマエには監視をつける必要ができた。でまあ? なんつーの? そのきっかけを作った疫病神本人が? きっちり監視しろ、ってーお達しを受けたわけだ」


「それってどういう」


「もうしばらくココにいてやんよ。よろしくな」


 レーコさん! 嬉しさの余り抱き着こうとしましたが、邪険にされてしまいます。


「抱き着くんじゃねえよ!」


 でも実体化してくれてるじゃないですか!


「今だけだ。特別サービスだよ。あと、オマエの告白の件はとりあえず保留な。アタシにゃそこまでの覚悟はねーよ。男も知らずに死んだんだぞ」


「えっ」


「えっ、ってなんだコラ! アタシが処女でなんかおかしいか!?」


「いや、そんなことはないですけど、でもちょっと意外っていうか」


「んだとコラ! もういい! 知らん! アタシは帰る! 二度と戻ってきてやらねーからな!」


「……」


「そのメス顔やめろ、っつってんだろーが。仕事だからココに居てやるよ。だからもうちょいオマエの不幸は続くぜ?」

 不幸ってなんでしょうね。

「――僕、今まで生きてきた中で今、一番幸せです」


「バーカ。こいつはハッピーエンドなんかじゃねえぞ。ほれ、外に出ろ」

「は、はい」

 レーコさんに急かされるようにドアを開けると、瀬戸さんと笑美ちゃんがいました。あれ? なんでここに?

「アキラ!」

「アキラちゃん!」

 ふたりが同時に抱き着いてきました。

「あれ? 瀬戸さん、エミちゃん――なんで泣いてるの?」


 えっ? あれっ?


「アキラぁ。オマエはほんとーにクズだよなあ」

 レーコさんだけがなんとも言えない表情を浮かべて苦笑いを浮かべていました。

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