第12話-B面 時任秋良は苦手である。
僕の両親がそこには立っていました。
呆然とする僕に、
「家が燃えたって聞いてたがホントに全焼してるな。ははは! 流石に私もびっくりしたぞ。跡形も残らんもんなんだなあ」
「向こうでの仕事がひと段落して日本でちょっとした仕事があったからついでに寄ってみたのよ。三波さんにご迷惑かけてない? ああ、そうそう。これ、三波さんの奥さんに渡しておいて頂戴。今までお世話になった分の生活費。それからアキラの口座にもお小遣い振り込んでたから適当に使いなさい。無駄遣いしなければ自由にしていいわ」
母さんから渡された封筒はずしりと重く、中に入っている金額は百万円とかそれくらいはありそうでした。おそらく僕の口座にも同額かそれ以上が振り込まれているんでしょう……。
「アキラ、お前はこれからどうする? 私たちと一緒に海外に転居するか、どこかに部屋でも借りて独り暮らしするか、このまま三波さんの家にお世話になるか。好きに選んでいい」
「最近日本も何かと物騒だから、こちらに残るのなら三波さんのお宅にお世話になっているのが私たちには安心だけれどね」
「あ……」
父さんと母さんは洪水のように喋り続けてきます。
「それにしても家の跡地はどうするかな。駐車場にでもするか、いや、いっそビルでも建ててテナント貸しするか」
「住宅街にビルを建てても入居は見込めないんじゃない?」
「なら賃貸アパートかマンションにする方がいいか。アキラ名義で建ててやろうか?」
こういうことを本気で言っているからタチが悪いんです、僕の両親は。
「――さて、時間だ。私と母さんは仕事に行く。明日の夜までにアキラがどうしたいかを連絡してきてくれ。ゴールデンウィーク明けには私たちはまた海外だからな」
明日の夜まで、ですか。
「……はい。わかりました」
「じゃあ、三波さんの奥さんと旦那さんによろしく伝えておいてね。笑美ちゃんとも仲良くするのよ」
「……わかってます」
僕はゆっくりと閉まっていく玄関ドアの向こう、振り返ることもなくあっという間に遠ざかっていく両親の背中をぼんやりと眺めていました。
……本当に、苦手です。
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