第14話-B面 時任秋良は約束する。

 夜。

 

 部屋のドアをノックする音がして、

「アキラちゃん、入っていい?」

 笑美ちゃんの声が聞こえました。


「……あ」

 正直今は会いたくないんですが、

「オイ、アキラ。入れてやれや」

 とレーコさんが鬼の形相で滅茶苦茶プレッシャーをかけてきます。怖いです。

 なので僕は布団から這い出し、ベッドに座って、

「どうぞ」

 と答えました。


「お邪魔しまーす」

 するりと部屋に入ってきた笑美ちゃんは晩御飯の載ったトレイを持ってきてくれました。

「食べれるかな?」

「あ、うん」

「じゃ、テーブルに置くね」

 と言って、ローテーブルにトレイをおいて、クッションに座りました。

「アキラちゃん、大丈夫?」

 心配してくれるのは有難いことだと思います。

「うん」

 そう答えながら内心では今は放っておいて欲しいと思っていました。

 そんな気持ちが顔に出ていたみたいで、笑美ちゃんに困った顔をさせてしまいました。

「邪魔、だったかな?」

「……」

 何も答えられない僕に笑美ちゃんは微笑んでくれました。

 そしてやや躊躇いがちに、

「あのね、アキラちゃん。よかったら明日ちょっとおでかけしない?」

 と提案してきました。

 おでかけ、ですか?

「そんなに遠くじゃないよ。昔ふたりで、よく遊んだところに行ってみない?」

「……」


「嫌なら、そう言ってくれていいからね?」

「……どうして?」

 そんな風に僕に構ってくれるんでしょうか。

 僕は笑美ちゃんに何もしていないのに。

「ん。私も気分転換したいなー、って。折角連休なのにどこにも行かないのも勿体ないでしょ?」

「そうだね。じゃあ行こっか」

 僕の返事に笑美ちゃんはにっこりと笑って頷いてくれました。

「明日の十時に出発。約束ね!」

「分かった。晩御飯ありがとう、エミちゃん」

「食べれるだけでいいから、ちゃんと食べてね」

「うん」

「食器は廊下に出しておいてね。おやすみアキラちゃん」

「おやすみ」


「アキラぁ」

「なんですかレーコさん」

 レーコさんの手が頭に触れました。撫でられました。

「まあ、オマエにしちゃ頑張ったんじゃねーの? さっさと食ってとっとと寝ろ」

「……はい」

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