第11話-B面 時任秋良は減らしたい。

 ギプスが外れるまでの三週間、僕は笑美ちゃんと瀬戸さんがお昼に持ってきてくれるお弁当をそれぞれ毎日欠かさず食べ続けたのでした――


 結果として、

「……太ってしまいました」

 体重計に乗ってみるとプラス六キロになっていました。

「おーおー、こりゃすげえ。大したもんだ」

「ちょっ! レーコさん、見ないでくださいよぅ」

「見たって減るもんじゃねえだろ」

「減らないから見せたくないといいますか」

「まあ、あんだけ昼飯ドカ食いしてれば増えるわー。体育も見学するしかなかったんだしよ」

 仰る通りです……。

「つーか、オマエは元がガリガリだったんだからこんくらい別にいーだろ」

「はあ。不幸です……」

「テメーは自分の境遇に少しは感謝をしろ」

「あいた」

 実体化したレーコさんのチョップが僕の頭部に刺さりました。


「で、このままデブるのが嫌ならアレだな」

「……まさか、レーコさん」

「おう。運動しろ、運動」

「ええぇぇえぇぇ……」

「どっから声出してんだよ。つーか、どんだけ嫌なんだ」

「……食べる量減らすだけでなんとかなりませんかね」

「今まで食った分はなくならねーだろが」


「体動かすの、苦手なんですよ」

「知るかバカ。今はいいけど、夏服になったら腹まわり目立つぞー」

「うぐっ」

「体育で水泳あるんじゃねーの」

「ふぐっ」

「今からやれば間に合うんじゃね? なんならコーチしてやってもいいぞ」

「ほんとですか!?」

「おう」


 その日の夜、部屋の中で僕はどこからか竹刀を取り出したレーコさんと相対していました。


「まずは筋トレだ」

 とレーコさんは言いました。

「先にジョギングとかの有酸素運動した方がいいけど、アキラの体力だとそれだけで終わっちまいそうだしな」

「あ、はい。ご配慮痛み入ります……」

「とりま腹筋してみ」

「はい」


 三十秒後――


「え、オマエそれマジ?」

「はい……」

「二回っておまどうなってんだ。うわっ腹ぷよぷよじゃねーか!」

「あひんっ」

「変な声出すんじゃねーよ!」

「ささ、触らないでくださいよー!」

「オマエ、この腹はアウトだぞ」

「ううぅ」


「次、腕立てやってみ」

「はい」

「……おい、上がってねえぞ」

「えへへ」

「生まれたての仔鹿未満かオマエ」


「もういいわ。スクワットやってみ」

「それならなんとか」

 と答えてスクワットをはじめて数秒後、

「膝じゃねえ! 腰を落とせ! 腰だ腰! さぼるな!」

「ひいっ」


 それからしばらくの間、夜寝る前に部屋で筋トレの日々が続きました。

 き、筋肉痛が……。



 翌朝、洗面所の隅の体重計に乗ってみました。

 全く変わらず。

「ですよねー……」

 一日でそんなに変わるわけないですよね。

 その流れで顔を洗っていると、笑美ちゃんが姿を現しました。

「おはよう、アキラちゃん」

「あ、おはようエミちゃん。ちょっと待ってね」

「うん、大丈夫。ゆっくりでいいよ。ところで、さ」

 と一旦言葉を区切って、笑美ちゃんは恥ずかしそうに切り出してきました。

「夜ね、あの、私に、その、なんていうか、手伝えることがあったら……、あ、あの、い、言ってくれていいから、ね」

 

 あれ? 筋トレはじめたこと言ってないですよね……?

 でも手伝ってもらえるのはありがたいです。 


「うん、ありがとう! 今度お願いするね!」

「えっ」

 えっ、ってなんでしょうか。

 まあいいか。

「エミちゃん、お先に」

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