第8話「遅刻と報告」
第8話‐A面 時任秋良は恥ずかしい。
朝食の食卓。
少し慣れてきた三波家の和朝食。
それを笑美ちゃんの手で、
「はい、アキラちゃん。あーん」
「あ、あーん」
口の中にだし巻き卵が放り込まれ、じんわりとした出汁が舌に沁みる。
「どう? おいしい?」
「うん。でもね、エミちゃん」
「なあに? 次は焼き鮭?」
「じゃなくて。左手でスプーン使えるから、その」
「それじゃ時間かかっちゃうでしょ!」
「でもエミちゃんがごはん食べる時間がなくなっ――」
「私はもう食べたから大丈夫!」
「あー……ん」
そうして観念して口を開く僕なのでした。
――昨日、階段から落ちた僕の右腕の骨にちょっとヒビが入ったみたいです。
尺骨と橈骨? にごく小さなヒビが入っている、とお医者さんには言われました。
そして、「またキミかね。よく来るね」とも。
まあ、年に一回はお世話になってますしね……。
そんな僕は玄関で笑美ちゃんを待ちながらレーコさんと喋っています。
「オマエホントにツイてねーのな」
「厄病神のレーコさんにだけは言われたくないですよ……」
僕が愚痴ると、
「そうは言うけどよ、アタシはオマエに取り憑いてからこっち全っっっく何にもしてねーからな? アキラのリアルラックが低すぎて全部起きてっからな? アタシの方が商売あがったりだぜクソッタレ」
「そーなんですねー」
笑えない。
厄病神(見習い)でも匙を投げるほどの不幸さって、僕はなんなんでしょうか。
「ま、ヒビくらいで済んでよかったな。首とか頭ヤッてたら呑気にメシも食えねーしな」
「そ、そうですね……」
右腕のギプスを見て、まだ幸運だったのかもしれないな、と思い直しました。
「いってきまーす」
「い、行ってきます」
エミちゃんがやってきてふたりで家を出た玄関脇で、
「お、おはよう。アキラ」
瀬戸さんが待っていました。
……え?
「おはようございます?」
ちょっとびっくりして疑問系で挨拶してしまいました。
「アキラ、昨日はごめん。本当に、ごめんなさい」
「いえ、僕の方こそ支えきれずにすみませんでした」
「アキラが謝ることじゃないよ! だから、さ。せめて腕が良くなるまではアキラの負担を減らしたいと思って」
「はあ」
えっとぉ?
「これから良くなるまで毎日迎えに来るから。学校まで鞄、代わりに持っていくから!」
「ええっ」
そこまでしてもらうのは却って申し訳ないですよ!?
「アキラちゃんのお世話は私がするから大丈夫です!」
横から割って入って来たのは笑美ちゃんです。
「はあ?」
瀬戸さんも凄い顔で睨み返して火花を散らしはじめました。
「モテモテだな、アキラ。両手に花っつーにはかーなーり色気が足りねえけど、いいんじゃね?」
「レーコさんは他人事だからそんな風に言えるんですよ」
「もういっそどっちともいい感じになって三角関係で揉めろ。そしたら不幸度アップ間違いねえぞ。いいなコレ。そうしようぜ、アキラァ」
「なんて厄病神っぽい発言……」
「っぽいじゃねーんだよ! 厄病神だっつーの!」
「そうでしたね」
「オマエぶん殴るぞ」
「殴ってから言わないでくださいよぉ」
痛かったです……。
ちなみに、瀬戸さんとエミちゃんが大揉めに揉めて今日は遅刻してしまいました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます