第8話‐B面 毒島玲子は報告する。

 アタシはアキラの右斜め後方で、腕を組み胡坐をかいた状態で浮遊しながら、ぎゃーぎゃーやってる女どもを見下ろしていた。


「んー」


 アキラの奴、腕の骨がイッたのはまあツイてなかったとはアタシも思う。

 不幸っちゃ不幸だ。

 落ちた階段も普通なら骨にヒビが入るような高さでもなかったしな。


 でも今のこの状況は不幸なのか?

 エミとメガネ女が甲斐甲斐しく我先に荷物を持ってくれるってこの状況は。


 ……ちょっとよくわかんねーな。


 そもそもアタシがこのバカアキラに取り憑いてから、アタシ自身が何らかの不幸を押し付けたことは今の所ただの一回も無えときてる。

 全部アキラの自前の不幸力ふこうぢから――アタシの造語だ――で起きてることなわけだ。

 こういった場合、アタシの評価どーなるんだ?

 いっぺん師匠ジジイに報告入れとくかー。めんどくせーけどしゃーねーな。


「おうアキラァ」

「はい?」

「アタシはちっと野暮用ができたんで少しの間離れるけど、妙な真似すんじゃねーぞ」

「妙な真似、って?」

「アタシの見てねーとこで勝手に不幸になんな! ってーこった! じゃな!」

「あっ、はい。いってらっしゃい」


 アタシはガッコまでの道の途中にあるデカい高層マンションの屋上まで飛び、水のタンクみてーなヤツの上に腰をかける。春風が気持ちいいぜ。

 アタシはジーパンの尻ポケットから画面がヒビだらけのスマホを取り出し、電話帳の履歴の一番上にある「ジジイ」をタップ。

『ワシじゃ』

「おう、師匠ししょう。今ちょっと時間いいかい?」

『まず挨拶をせんかバカ娘が!』

「っとぉ! わりわり。おはざっす師匠」

『む、まあよかろう。どうした玲子。何かあったか』

「あったっつーか、何もねえっつーか、とりあえず現状報告しとこーと思ってよ」

『玲子にしては殊勝な心掛けだな』

「うっせ」

『それでどうした?』

「あー、うん。えーと、アタシが憑いてる時任秋良なんだけどさ、アイツおかしーんだよ」

『おかしいとはどういうことか説明せい』


 アタシはアキラが生来の――かどーかはわかんねーけど――不幸体質であること。

 アタシが何か手を下すより先に勝手に不幸になること。

 そんでもってその不幸が回りまわってなんかプラス方向に作用しちまいがちなこと。


 そんな話をざくっと説明した。


「で、まあ現状、元々住んでた実家は全焼、ジャンケンで負けてクラス委員に就任、幼馴染の兄貴に襲われかける、ガッコのチンピラモドキに絡まれる、階段から落ちて腕の骨にヒビ、ってとこなんだけどよ。これってアタシの評価としてはどんなもん?」

『玲子は何もしとらんのだな?』

「お、おう」

『ならば零点だな』

「……マジかー」

『それだけ不幸が連続しとるなら玲子がきっちり駄目押しせんか。馬鹿者が』

「おっ、おう」

 ちょいちょいアキラを助けちまってることは黙っとこう。ぜってぇーしこたま怒られるに決まってるからな。

「わーったよ。話聞いてくれてありがとな、師匠。じゃな」

『玲子よ』

「んだよ。まだなんか説教かよ」

『……ちゃんと精気は取れておるか? 無茶なことはしとらんか? 休むときはちゃんと休まんといかんぞ。夜更かしなどしとらんだろうな? 霊体でも疲労は蓄積するんだからな』

「なんだよ、ンなことかよ。ガキじゃねーんだからわかってんよ」

 年寄りは小言が多くていけねえ。

『う、うむ。ならいいがな』

「じゃ、もう切るぜ。そろそろアキラのとこに戻んねーとよ」

『う、うむ。また連絡してこ――』

「おう。じゃーな」

 最後の方だけ妙に猫なで声になりやがって気持ち悪りい師匠ジジイだな。

 ま、いーか。

 さっさとアキラのとこに戻らねーとな。

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