第5話‐B面 毒島玲子は立腹している。
ガッコってのはくそかったりーもんだ。
よくもまあ真面目に授業受けてられるもんだと思う。
だから金曜の放課後に教室がやかましくなるのはまあわからねーでもない。
けどうるせえわ。動物園の猿山かここは。
「ああ、あの陰キャな。名前知らないけど」
「あはは。私も知らね」
とかいうディスりも聞こえてきやがる。
なんでかむかついちまってるアタシは、
「おいおいアキラ、いじられてんぞ。ちょっと行ってシメてこい」
「無理ですよー。それに実際僕、陰キャですし」
「陰キャは事実でもディスられたら
「ラップのネタまだ引っ張るんですねレーコさん」
「へいよーちぇきぇらっちょ」
超棒読みで行ってやったらアキラにしては珍しく怒った顔になった。
「……馬鹿にしてます?」
「お、いいね。その目だアキラ。その目でガツンと行ってこい」
良い感じに送り出そうとしたところで、
「時任」
邪魔が入った。ちっ、ツイてねーなアタシも。
堅そうなメガネ女だ。たしか立候補でクラス委員やってる奇特なヤツ。
「あ、はい。なんですか?」
「キミが預かってる進路希望調査ある?」
「な、ないです。ごめんなさい……」
「謝ることじゃないでしょ。期限までに提出してない人が悪いんだから。――でも困ったわね。あと三人分足りないの」
「三人ですか」
「キミも含めてね」
アキラ、オマエもかよ……。
「すっ、すみません!」
「キミのは後でいいから悪いけどあのふたりの分、もらってきてくれないかな?」
おいおい、パシリにすんのかよ。
一応立場は同じクラス委員じゃねえのか? まあアキラのがだいぶ格下感あるけどよ。
「よろしくね。はいこれ、予備の用紙とペン。念のためにね」
「あっ、はい! い、行ってきます!」
アタシは小さく舌打ちした。
素直に従うのかよアキラ。ま、別にどーでもいーけどよ。
「おーおー、同じクラス委員に見事にパシられてんなあアキラ」
「僕が何もしてなかったんだから仕方ないですよ」
「ま、オマエがいいならアタシは構わねーよ」
「あの!」
無視された。つーか、聞こえてねえぞこりゃ。
「アキラの声がちっせえんだよ。腹から声出せ。あと正面に回り込んで、足止めさせろ」
「はいぃ」
「あの、お帰りになるところすみません!」
腰低いなーオマエ。
「ん?」
「誰?」
「く、クラス委員の時任です。あの、進路希望調査を集めてて」
「えー? めんどくさくなーい?」
「なんかテキトーに書いといてよー」
「いえ、そういうわけにはいかないので、お願いします」
アキラのバカはこのバカ女どもに頭を下げて頼みやがった。
そのアキラの姿を見て、バカ女どもはくすくす笑い出しやがった。
……おいコラてめーら、末代まで祟るぞアァ!?
「「ひっ」」
つい漏らしたアタシの殺気を食らって二人はちびりそうになってビビリやがった。
けっ、雑魚が調子こいてんじゃねーぞ。
「わ、わかった。わかったら顔上げて!」
片方はくっしゃくしゃの紙を渡してきやがった。まあ、モノがあればいいだろ。
「あのさ、あたし、紙無くしてんだけど……」
「こ、これに書いてください!」
「あ、ありがとね……。ちょっと待ってて」
「これでいい?」
「いいと思います。たぶん」
で、まあ二人分をアキラは無事回収した。コイツにしては頑張った方だ。
ちっ、
「んじゃ、よろしくね」
「そ、それじゃ」
逃げるように去っていくバカどもを見送って、
あークソ、なんか腹立ってきた。
「おいアキラ、あいつら一発殴ってこい。舐めくさりやがって」
「なんでレーコさんがそんな怒ってるんですか」
「そりゃオマエ……知らねーよ!」
自分が一番バカだったからムカついてるとか言えるか!
「なんなんですか一体」
「殴りにいかねーならさっさと教室戻れや。クラス委員のメガネ女がお待ちかねだぞきっと」
そう言ってやったらアキラは犬みてーに駆け出しやがった。廊下は歩けや!
「瀬戸さん、貰ってきましたよ」
「え」
「え、って?」
「ほんとに? あのふたりから? すごいね」
おいおいこのメガネ。できると思わねーこと無茶ぶりしてやがったか。
嫌な女だ。アタシの苦手な、いや嫌いなタイプだ。
「そう、ですか?」
「うん。私が言っても駄目だと思ったから、キミに丸投げしちゃったんだ。ごめんね」
ごめんで済んだら
「いえ、いいですけど」
このバカは許してやるらしい。
お人好しにも程がある。
どいつもこいつもムカつくぜ。クソったれが。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます