第2話「幼馴染」

第2話‐A面 時任秋良は居候する。

 家は 全焼

 言わば前哨


 これから始まる 不幸の前兆

 燃え殻 燻る  苦労の延長


 延々と連なる Bad Luck

 永遠に繋がる Hard Luck


 生き汚く 美辞麗句 並べ戦うも

 日々きわまる道 Days 雪崩に抗うFlow


 ――なんて現実逃避にライムしてリリック刻んでる場合じゃないんですよね。そもそも不幸の雪崩に全く抗えてないですしね……。


「やるじゃんアキラ。フリースタイルラップとかやんのかよ?」

「やりませんよ! てか何で聞いてるんですかレーコさん!? 」

「そりゃおめー間近でブツブツやられたら聞こえちまうだろーがよ」

「あうう」

 それもそうですね。

「まあ、アレだ。家は燃えたけど人的な被害はねーんだろ? 親は海外なんだっけか?」

「はい、仕事の関係で。さっき連絡ついたんですけど、三波さんのお宅にしばらくやっかいになれ、って」

「ははは! なかなかの放任主義だなオイ! それがどーしたらこんな陰キャに育つもんかね?」

「放任したからって誰もがパリピになるわけじゃないですよ……」

「その割にさっきのリリックは悪くなかったぜ?」

「そこから離れてくださいよ!」

「あっはっは! 怒んなって!」


 と、そこに笑美ちゃんがやってきました。

「アキラちゃん、大丈夫?」

 全焼した家の跡地を眺めながらブツブツ言ってたらそりゃあ心配になるでしょう。僕なら声をかけたり絶対しないです。笑美ちゃんはやっぱり優しいです。

「あ、うん。三波さんの家に延焼しなくてよかったよ」

「こんな時まで人の心配しなくていいよ!」

「そ、そうだね……。あの、うちの親が、三波さんの家に世話になりなさい、って言ってて、その」

「うん! 大丈夫だよ! お母さんにも連絡あったみたい。お部屋はお兄ちゃんの使ってた部屋をそのまま使ったらいいから遠慮しないでね」

「え、でも、ケースケ兄さんはどうするの?」

 圭介さんは十歳くらい年上の笑美ちゃんのお兄さんです。

「お兄ちゃん、就職して一人暮らししてるから。部屋は今使ってないの。お兄ちゃんのモノがいっぱいあるけど気にしないで」

「あ、うん」

「立ち話もアレだし、うちでお茶でも飲んで一回落ち着こうよ」

 と、笑美ちゃんは僕の手を取ってぐいぐい引っ張っていくのでした。


 久しぶりに三波家に入ったなあ。

 いつ以来だろう。

 居間へ通されて、ソファに座らされました。

 それも、上座の、一人掛けの高そうなソファという、一番良いところに!

「いえ、あの、僕はその隅っこの方でいいんで、あの、だから」

「どうしたのー? お茶入りましたよー」

 笑美ちゃんのお母さんがお茶を持ってきてくれます。

 あとおやつも。

「アキラちゃん、これ昔好きだったでしょう?」

 甘じょっぱいお煎餅。

 そういえば、小さいときよくおよばれしたなあ。

「いいね。うまそうじゃん」

「レーコさん、食べられないでしょう。ていうか食べれたら食べれたで怪奇現象にしか見えないからやめてください!」

「ちっ。あとで食うからな。ちゃんと一枚アタシの分、くすねとけよ」

 どうやって食べるんでしょうか……。


 当面は圭介さんの部屋に住まわせてもらえることになりました。

 そしてその日の夜、その圭介さんが帰ってきました。

「よーう、アキラ! 久しぶり、ってか大変だったなあ。オマエんちが燃えたって聞いたからよ、定時で退勤して実家こっちに帰って来たんだわ」

 何年かぶりに見る圭介さんは、僕より頭ひとつ高い身長にがっちりとした体格で、スーツがばっちり似合う大人になっていました。

「お久しぶりですケースケ兄さん。あの、お部屋なんですけど」

「あー、聞いてる聞いてる。好きに使えよ。晩飯食った後で秘密のお宝の隠し場所も教えてやるからな?」

「ちょっとお兄ちゃん! アキラちゃんに変なこと教えないでよ!」

「へいへい。すんませんねー」

「もう!」

「ま、家の方は保険かなんかでどうにかなるんだろ? オマエが無事でよかったよ」

「ケースケ兄さん……」

 良い人だなあ。


 その日の夕食はご両親と圭介さんと笑美ちゃんの一家団欒に混ぜてもらいました。

 昔話をいっぱいしたので、場違いな感じがなくてほっとしました。

 疲れていたせいもあって、早めにお風呂をいただいてベッドに入り眠りにつきました。


 ――深夜。

 何かの気配を感じて僕は目を覚ましました。

 レーコさんではないです。

 レーコさんは空中で腕を組みあぐらをかいた器用な姿勢で寝ていました。

 キイ、と部屋のドアが開く音がして、僕は身を固くしたのでした。

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